一般の人にとって、不動産の売買や相続は、一生のうちにそう何度も経験するものではありません。しかし、大きなお金が動く機会でありながら、不動産の知識がないために、何百万、何千万という金額を損してしまうケースもあるようです。
そうした不動産問題や不動産の知識をわかりやすく伝えるため、不動産鑑定士の泰道征憲氏と、YouTube登録者数70万人を超える同じく不動産鑑定士の中瀬桃太郎氏は、2024年6月21日に書籍『悪魔の不動産鑑定』(クロスメディア・パブリッシング)を発売。今回は著者のお二人に、相続や不動産購入において気を付けたいポイントをお聞きしました。
■ネット社会の昨今でも、不動産業界はブラックボックスの部分がある
━━不動産鑑定士とはどのようなお仕事で、 普段どのようなお客様とお付き合いがあるのでしょうか。
中瀬さん: 我々は不動産鑑定士として活動していますが、メインの事業は不動産会社なんです。ですので、両方の業務とそれぞれにおいてお付き合いのあるお客様をご紹介しますね。
まず、不動産鑑定士には色々な業務がありますが、不動産の適正価格を査定し、鑑定評価書を書くというのがメインの仕事になります。
こちらの業務では、一般の消費者よりも銀行やファンド、資産運用会社など企業と関わることが多いですね。あとは、市区町村や国など行政の案件を担当することもあります。一般の方とお付き合いする機会が少ないので、よく「不動産鑑定士って何してるの」と言われます(笑)。
不動産会社としては、主に不動産売買と不動産相続の2つの事業がメインになります。お客様は、地主さんや資産家の方、経営者の方などが多いです。また、これから不動産を相続する予定の方や不動産を売買する方にも対応しています。それと、弁護士や税理士など他士業の先生からのご紹介もあります。
━━弁護士や税理士の先生と一緒に仕事をされるという形でしょうか。
中瀬さん: それもありますが、弁護士さんが担当されているご相談者様から、「鑑定評価書を作ってくれませんか」と依頼されたり、 税理士さんから「あの土地の価値を教えてもらえませんか」と聞かれたり、そういったことがよくありますね。
泰道さん: 相続税申告・対策については、主に税理士の先生が担当します。相続税申告や、相続税に伴う節税、相続税対策ですね。その相続税対策の中で比較的効果が大きいと言われているのが、不動産の運用なんです。不動産をうまく活用すると、それこそうん百万円から数千万円の相続税が変わるんですよ。資産家の方や地主さんというのは不動産をたくさん持っていますので、不動産の活用というのが相続税対策の肝になってきます。
しかし、税理士の先生は税金は専門ですが、不動産の活用については一般の方と比べてすごく知識があるわけではありません。ですので、不動産の活用方法については我々の方で助言させていただいているんです。
━━本書では、不動産売買や相続で陥りがちな落とし穴、メリット、デメリットが多く記載されていますが、 このような本を出版しようと思われた理由を教えてください。
中瀬さん: 不動産売買や不動産相続って、人生で1、2回程度しかないと思うんです。 知識を身に付けていないと、運が悪い場合、質の悪い業者さんに騙されて何百万、何千万円単位で損をしてしまうケースがちらほらあるんですよね。
昨今はネット社会ですので、不動産業界の情報が明るみに出てきましたが、それでも全てが透明化しているわけではなく、まだまだブラックボックス化している部分はあると思っています。そういった情報をまとめた本が1冊あれば、一般の方にも不動産業界のことを知ってもらえますし、安心していただけるのかなと。
ちょうどYoutubeも伸びていましたし、それを書籍化することは一種の社会貢献につながるかなと考え、本を出版しました。
■「相続税対策」と言えば、不動産が1.5倍高く売れる
━━「不動産の購入者が最も陥りがちな失敗」は何だと思われますか。
中瀬さん: 株は、毎日の時価がわかりますよね。一方、不動産は株のようにすぐに時価がわかるようなものではありません。ですので、その物件の価格が割高なのか適正なのかは、専門知識がないとわからない状態なんです。
たとえば収益物件なら、家賃収入ばかり気にして費用については全く知らないまま買ってしまい、 気づいたら家賃収入より手出しの方が多かった…というパターンがあります。
あとは、相続税対策で、「税金対策のために高い物件を買いませんか、これを買ったら何千万円という相続税が圧縮されますよ」と業者に言われることがあります。
でも、適正価格が1億円の物件を「相続税対策になる」という売り文句で1億5000万円で買ってしまい、相続税としては1000万円くらい安くなったけれど、結局はすでに5000万円高く買っていて損している、というパターンがよくあるんです。
泰道さん: 私は業界歴15年ぐらいになりますが、業界の裏側では、「相続税対策と言えば、不動産が1.5倍高く売れる」と言われていたこともありました。相続税対策として1000万円節税できてたとしても、不動産自体を5000万ぐらい割高で買ってしまえば元も子もないのですが、業界では少なくはないです。書籍にちなんで言えば、まさに「悪魔の相続税対策」という感じですね。
中瀬さん: ですので、業者の言葉を鵜吞みにせず、「セカンドオピニオン」として、不動産鑑定士など他の専門家にも意見を聞いて判断することをおすすめします。
━━実際に目にして印象深かった相続の失敗談があれば教えてください。
泰道さん: 相続の失敗談では、「税理士がついているから、もちろん相続税対策もやってくれるだろう」と思っていたら、実際に相続が発生した際、うん千万、うん億円の相続税が発生してしまった…というケースはよくあります。
税理士がついているのになぜ? と思いますが、 税理士にも確定申告や決算申告が得意な税理士と、 相続税対策が得意な税理士に分かれるんです。相続税対策は少し特殊なスキルが必要なので、これが得意な税理士は数としては少ないですね。皆さんが一般的にお願いしてる税理士の先生は、確定申告や決算申告が得意な先生が感覚として9割程度です。
資産がたくさんある方は、「おじいちゃんの代からお世話になっている税理士にお願いしているから」と安心していますが、たとえばおばあ様が亡くなった時に、全く相続税対策できていなくて相当な金額の相続税がかかることがあります。
相続税が1億円くらいかかってしまっても、自己資金自体はさほどない方もいらっしゃるので、不動産を売らないといけなくなり、ご自身の資産がどんどん目減りしていくというケースがありますね。
━━では、不動産売買の失敗談は何かありますか。
泰道さん: 収益不動産を買われる方がよく、購入の際に「家賃収入がいくら入ってきて、費用がこのくらいで、 ローン返済したら手残りはこのくらい」と計算しますが、業者さんとしては手取りを多く見せたいので、費用の項目を全て見せないことが多いです。
業者さんが、「100万円の収入があり、 70万円の支出があるので手残りは30万円ですよ」というシミュレーションをしますが、実際は見えない費用がもっとある、もしくは、家賃収入がどんどん下がっていくようなエリアで買ってしまい、その結果、毎月赤字で不動産を持つというケースはまれにありますね。
そうした事態を回避するには、やはり信頼できる業者さんにお願いするのが一番の対策になると思います。
━━反対に、印象深かった相続や不動産売買の成功談があれば教えてください。
泰道さん: 相続の成功談で言うとやはり、資産家さんが相続税専門の税理士にお願いするケースでは、結構な金額で節税できていますね。
また、不動産売買の成功談としては、ここ10年ぐらい前にマンションなど不動産を買っている人、特に1都3県や大阪などの主要都市で買っている人は、基本的にみなさん成功していますね。マンション価格は一気に高騰していて、10年前に「この場所でこの金額は高すぎる、買う人いないよ」と言われていたマンションが、今では1.5倍や1.8倍になっていますので。
■「資産価値が保てる物件」の3つの特徴とは
━━不動産鑑定士の目から見て、「資産価値が保てる物件の特徴」とは何でしょうか。
泰道さん: 資産価値が保てる物件の特徴は、主に3つあります。まず1つめが「人口が増えているエリア」にある物件、2つめが「再開発が起こっているエリア」にある物件、3つめが「土地の価格が上がっているエリア」にある物件です。
「人口が増えているエリア」は、そこに住みたい人が増えていて需要が高まっているので、価値は上がっていくと想定できます。「再開発が起こっているエリア」は、基本的には町並みがきれいになっていきますし、児童施設や商業施設なども整備されていくので、人口が増えていくだろうと予想できます。
「土地の価格が上がっているエリア」にある物件も資産価値が保てる物件の1つですが、これについては「地価公示」を見ると、その土地の価格が上がっているか下がっているかがわかります。この地価公示というのは、我々鑑定士が土地を査定し、毎年国土交通省が発表している土地の水準を示す資料なのですが、それを見ていただければ価格の上がっている土地を知るのに役立つと思います。
━━不動産の購入にあたって、最低限チェックしておくべきことは何でしょうか。見ておきたい資料や周囲の状況などもあれば教えてください。
泰道さん: 見ておくべき資料については、今お伝えした3つですね。たとえば、地価公示はGoogleで「地価公示」と検索すればすぐ出てきます。人口の推移についても、たとえば「○○区 人口の推移」と調べると、 それぞれの市区町村が情報を出してくれていますので、こちらもすぐわかります。
再開発については、「○○駅(最寄り駅名) 再開発」と調べると、こちらも市区町村が情報を出しています。
また、中古の戸建てを買うのであれば、修繕履歴を見ておいたほうがいいですね。古い物件ですと屋根の隙間から雨が入ってきて漏水したりしますので、築30年ものなどであれば、途中で防水工事をしてきちんとメンテナンスしているかという確認も大切です。
周囲の状況で見ておくべき点は、朝・昼・晩それぞれの時間帯で騒音や人の流れを確認しておくことですね。人の流れを見ると、その土地に住んでいる人の雰囲気や人通りの多さ・少なさがわかります。また、不動産を購入される方は自分から確認する方が多いですが、駅から家まではしっかり歩き距離を把握したほうがいいですね。
『悪魔の不動産鑑定』(中瀬桃太郎 泰道征憲 著/クロスメディア・パブリッシング 刊)
70万登録の大人気YouTuber! 今もっとも勢いがある「桃太郎オフィス」が放つ、「不動産×エンタメ×実用」書。一度読んだら止まらない! 悪魔的な面白さで、不動産リテラシーが身につく! 「桃太郎オフィス」は、YouTubeで大人気。本チャンネルでは「ビジネスパーソンあるある」ネタをショート動画でコント仕立てに展開。たんに面白いだけでなく、本格的な不動産知識が得られると、多くの視聴者層に支持されている。本書は主に100万回視聴以上のものを中心にまとめ、私たちにとって身近な不動産問題がいかに「怪しく」、一方でいかに「魅力的」かを伝えていく構成だ。巷にあふれる不動産情報はいいかげんなものが多い。プロと一般人ではもっている情報量、アクセスできる情報源がまったく違うので、ほとんどの人々は不動産問題については、プロの言いなりになるしかない。そこで「悪魔の不動産鑑定」という眼をもって、真贋を見極めるべし、なのだ。
中瀬桃太郎(不動産鑑定士・YouTuber)
1995年、京都府京都市生まれ。立命館大学経営学部卒。大学卒業後、業界最大手の(一財)日本不動産研究所に約5年間在籍。平日はサラリーマン鑑定士として働き、土日はYouTubeで動画投稿をする。2024年6月時点で桃太郎オフィスのチャンネル登録者数は67万人、不動産事業部の登録者は16万人。サラリーマン時代に培った鑑定士としてのスキルとYouTubeの拡散力を生かし、現在は不動産相続・不動産売買に関する事業を展開中。
泰道征憲(不動産鑑定士)
1988年、千葉県市川市生まれ。日本大学理工学部卒。地主家系(長男)として生まれ、大学生の頃から「アパート建築による相続税対策」「不動産の売買」「土地の有効活用」等に携わる。大学卒業後、不動産仲介業者・鑑定・デューデリジェンス会社で修行した後、(一財)日本不動産研究所入所。研究所時代は土地の有効活用や不動産評価を軸とした鑑定評価業務を担当。現在は不動産の専門家として法人の顧問や資産家から不動産相談を受けつつ桃太郎オフィスの共同代表として実務面や契約周りを担当。