光学式プラネタリウムの誕生100周年を記念し、オランダの天文時計専門メーカー「クリスティアン・ヴァン・デル・クラーウ」(以下、CVDK)は機械式プラネタリウムを宿した特別コラボ時計「CVDK プラネタリウム 名古屋市科学館モデル」を発表した。
コラボ相手の名古屋市科学館は「世界最大級のプラネタリウムを持つ科学館」。科学館のシンボル・球体ドームを"世界最小の機械式プラネタリウム"である時計のモチーフに採用するというロマンあふれるコラボレーションだ。すでに販売予約がスタートしているほか、科学館では11月2日から同モデル0号機の展示もスタートする。
なぜこんな夢のようなコラボレーションが実現したのか、コーディネート役を務めた時計バイヤーの佐藤健氏に話を聞いた。
天文大国・オランダで受け継がれる天文時計の歴史とロマン
1974年にオランダで創業し、一貫して天文時計を製造し続けてきた「クリスティアン・ヴァン・デル・クラーウ」。1999年には世界最小の機械式プラネタリウムを備えた「CVDK Planetarium」を発表し、業界から大きな注目を集めた。
その後、同ブランドは2009年にオランダ人デザイナーのダニエル・レインテス氏らに引き継がれ、2022年にはマイスターウォッチメーカーのピム・コースラグ氏も参画。現在も天文時計専門のブランドとして独自の道を切り開き続けている。
一昨年開催された時計の見本市「ジュネーブ・ウォッチ・デイズ 2022」でピム氏と運命的な再会を果たしたのが、幅広いジャンルの時計を扱う企業「シェルマン」で時計バイヤーを務める佐藤氏である。
「ジュネーブ・ウォッチ・デイズの会場に行ったら、突然、私の前にピム・コースラグ氏が現れたんです。『クリスティアン・ヴァン・デル・クラーウを引き継ぐことになった』『来年から日本でも展開をスタートしたいから、協力してほしい』といったお話をいただきました。もちろんクリスティアン・ヴァン・デル・クラーウの存在は知っていましたが、ここまでオーセンティックなものづくり(天文時計づくり)を続けているとは知りませんでした。」(佐藤氏)
もともと、時計と天文学は切っても切れない関係にある。
現代の機械式時計の源流は17世紀、オランダ人の天文学者クリスチャン・ホイヘンスが基本原理を発明して以来、その構造的な考え方は大きく変わっていないとされている。
さらに遡れば、天文表示をするためには正しい時間を計る必要性があることから、1300年代のヨーロッパで天文時計が開発されたという経緯がある。
いわば天文表示を正確に行うための副産物として誕生したのが天文時計であり、その原理が今の機械式時計につながっているという構図である。
「時計の仕事をしていると、どうしても天文学の関係者ともつながっていくのですが、彼らから『2023年は光学式プラネタリウムが誕生して100年の節目になる』という話を聞いて、いろいろと調べてみたんです。すると、世界最古のプラネタリウムが実はオランダにあって、そのレプリカが名古屋市科学館にあるということがわかりました。さらに調べたら、名古屋市科学館のプラネタリウムは世界最大級だということもわかって、これはすごいなと。ちょうどピムさんも近く来日予定だということだったので、とりあえずは名古屋市科学館にお連れして、関係者のみなさんに会ってもらうことにしたんです。」(佐藤氏)
実際に名古屋を訪れたピム氏は、佐藤氏の計らいで、名古屋市科学館の天文担当課長である毛利勝廣博士らともつながり、議論を重ねていくうちに、"世界最小の機械式プラネタリウム"を搭載した「CVDK プラネタリウム 名古屋市科学館モデル」の開発を構想するに至ったようだ。
「クリスティアン・ヴァン・デル・クラーウは世界で唯一、天文時計だけをちゃんとつくり続けているブランドですが、ブランドを大きく育てたいという意識はないんです。それよりも、ただ、天文大国オランダで生まれたものをずっと継承していかなくてはいけないという使命感みたいなものを感じるんです。」(佐藤氏)
今は高級時計をステータスとして捉えたり、投資目的でコレクションしたりする人もかなり増え、時計の価値自体が以前とは大きく変化しつつある。
「でも、クリスティアン・ヴァン・デル・クラーウは時計が生まれた歴史に敬意を表し、天文時計というスタイルをずっと貫いて、これからも受け継いでいこうとしています。オランダ人たちと話していても、ナショナリズムみたいな部分で、この事業を引き継いでいこうと考えている、意思のようなものを感じます。彼らのこの"やり続ける力"はすごい。惑星の軌道を本当に自力で計算しながら表現していく人たちなので、表現者としても優れていますが、忍耐力にも優れているんですよ。」(佐藤氏)
「CVDK プラネタリウム 名古屋市科学館モデル」は世界で6本の限定販売として予約受付中。名古屋市科学館ではまもなく、展示用の実物が公開される。"世界最大級のプラネタリウム"と"世界最小の機械式プラネタリウム"のコラボレーション、その長い歴史とロマンをぜひ現地で体感してほしい。