近年は資産としても注目される機会が増えている高級時計。ロレックスやパテック・フィリップなど、さまざまなブランドがある中、2001年創業のリシャール・ミルは、従来の超高級時計ブランドの常識を覆す"逆張り"の戦略で成功を収めています。

新興ブランドでありながら「成功者のアイコン」としてのステイタスを確立したリシャール・ミルとは、一体どのようなブランドなのでしょうか。株式会社コメ兵 商品部 時計グループの那須祐介氏に聞きました。

  • 画像はリシャールミル RM-011-FM

成功者のアイコン、リシャール・ミルとは

――リシャール・ミルはどのような時計ブランドなのでしょうか。

最も買いやすい価格帯のモデルでも定価700万円程度の超高級時計ブランドで、「成功者のアイコン」として認知されています。

ブランドのコンセプトとして「腕時計のF1」を掲げており、その名の通り、最上の素材、最高の技術を詰め込むことに注力しています。常識を覆すような素材を使うなど、常に革新的な技術を投入しているのです。

男の夢と時計のロマンが凝縮されたといっても過言ではない本体は、軽量化・耐久性の向上を実現し、高級時計でありながらスポーツシーンでも着用を可能にしてきました。

また、PRや顧客の心をくすぐるのも上手く、2004年にはF1ドライバーのフェリペマッサ氏、2010年にはテニスプレイヤーのラファエル・ナダル氏をファミリー(アンバサダー)に迎え、競技中に着用することで、従来の高級時計では考えられなかった堅牢性・耐衝撃性をアピール。

2001年設立の新興ブランドでありながら、従来の高級時計ブランドにはなかった独自路線が人気を集め、最高峰時計ブランドの一角にまで上り詰めています。

――リシャール・ミルの時計にはどのような特徴があるのでしょうか?

リシャール・ミルは最先端の技術を取り入れて、コスト度外視で最高のものを作ることにこだわっているブランドです。そのあたりも、お金や地位はあるが、少年の心を失っていない"生涯少年"たちの心をつかんで放さない理由です。

例えば三大複雑機構といわれるトゥールビヨンを搭載したモデルは、機械式時計の弱点である精度のムラをなくしつつ、衝撃に弱いトゥールビヨンの特性をカバーするために、軽く頑丈でありながら、加工が難しいチタンを腕にフィットするように製作。F1カーでも使用されている切削加工が難しいカーボンを採用するなど、従来の高級時計の常識を覆す素材を取り入れ、軽量性と耐衝撃性を両立しています。

トゥールビヨンは複雑機構の頂点に位置する壊れやすい機構なので、本来は丁寧に扱わなければなりません。にもかかわらず、創業者のリシャール・ミル氏が耐衝撃性をアピールするために、商談時に時計を投げて渡すパフォーマンスをしたことは有名なエピソードです。

F1カーのようなスタイリッシュかつ非日常的なデザインもリシャール・ミルの特徴です。価格帯の異なるブランドに似たようなデザインの時計もなくはありませんが、手に持ったときの質感や部品一点一点の精度など、実物を見るとまったくの別物だとわかります。

日常使いできる超高級時計、2億円超のモデルも

――2001年創業でここまで知名度とステイタスの高いブランドになったのはなぜなのでしょうか?

高級時計というと貴金属や貴石を散りばめたモデルを想像する方も多いと思いますが、リシャール・ミルはそうではありません。

超高級路線ブランドでありながら、高価格の理由を、宝飾性や宝石などの価値ではなく、徹底した高品質や革新的な技術といったリアリズムに求めた時計と言えます。そのため、実用本位で日常使いできるところが人気を呼んでいます。

ですから、特に伝統的なラグジュアリードレスウォッチとは異なる高級時計を求めていた層に受けています。高級時計のオンラインマーケットプレイス「Chrono24」調べでは、リシャール・ミルを検索している人の60%以上が35歳未満というデータもあり、超高級時計でありながら若年層に支持されているのもリシャール・ミルの特徴ですね。

時計師がブランドを立ち上げるケースは多いものの、リシャール・ミル氏は、時計のマーケティング関連業務に従事していた経歴があり、成り立ちからしてほかの高級時計ブランドとは一線を画しています。創業者のマーケティングの知見もリシャール・ミルの成功に寄与しているのではないでしょうか。

――リシャール・ミルを代表するモデルや特に高額なモデルについて教えてください。

代表的なモデルとして「RM035」があります。ラファエル・ナダルが着用したRM 027からトゥールビヨン機構を取り除き、たった4.3gしかないムーブメントに強度と耐衝撃性を求め、ナダルシリーズに相応しい軽さと耐衝撃性を両立させました。

高額モデルとして、「RM56-02」が定価2.8億円、「RM53-01」が定価1.32億円というデータがあります。ただ、価格については個別問い合わせが原則のブランドなので、参考程度にしていただければと思います。

最先端の技術を取り入れ"究極"を追求するがゆえ高額に

  • 画像はリシャールミル RM11‐01RG

――「雲上時計」と呼ばれるのも納得の高価格ですが、なぜこれほどまでに高価格なのでしょうか?

リシャール・ミルの強みはケースとムーブメントの内外装を同じ精度で加工することです。一般的な時計メーカーは、ムーブメントには細かな精度で加工を施しますが、コストがかかりすぎるので、ケースまで同じ精度で加工することはありません。"究極"を追求するリシャール・ミルはコスト度外視で高い精度で加工をするため、高額になるのです。

生産本数が極端に少ないことも高額になる一因です。ロレックスの年間生産本数が120万本、パテック・フィリップが6万本、オーデマ・ピゲが4万本といわれるのに対し、リシャール・ミルの年間生産本数は5,000本程度に過ぎません。これだけ生産本数が少ないと、販売価格を高くしないと採算が合わないのです。

――時計愛好家が評価しているポイントは?

先進性と伝統の融合があること、技術面において業界をリードし革新的なブランドポリシーが感じられる点ではないでしょうか。時計業界ではありえなかったような素材を使うことで、軽量かつ衝撃に強い時計を生み出し、トゥールビヨンという衝撃に弱い機構を強度面で実用化させた功績は大きいです。

ただ、リシャール・ミルはステータスシンボル的な要素が強く、持つこと自体が「成功者」の証になるため、かねてからの時計愛好家だけが評価するブランドとは毛色が異なります。

一般的に、時計愛好家はすべてのパーツを自社で製作する「マニファクチュール」を評価する傾向がありますが、リシャール・ミルは、各方面から最高の技術者を起用するためにあえて外注を選んでいます。

時計業界ではマイナスイメージを持たれがちな「マニファクチュールでないこと」を前面に押し出して最高の時計を作っている点を評価している時計愛好家もいるのではないでしょうか。

マニファクチュールではどうしても自社のリソースに縛られてしまいますが、外注すると斬新な考え方、今までにない常識を覆す発想がしやすいため、革新的な時計を生み出すことが可能になります。これもまた、効率的に、その時の理想型を追求するブランドの姿勢が伝わるエピソードですよね。

定価の2倍で買い取られるモデルも

――リシャール・ミルの相場の推移はどうなっているのでしょうか?

生産本数が極端に少ないこともあり、リシャール・ミルの相場を語るのは非常に難しいと言わざるをえません。実際のところ、買い取りをご依頼いただいた際に定価以上の価格で買い取れるかどうかはモデルによります。

リシャール・ミルの場合、リセール時に最も有利なのは1,000万円弱~2,000万円程度のモデルです。ブランドの中では買いやすい価格帯ですが、高額モデル同様に生産本数が少なく需要が高まりやすいためで、需要が集中するモデルであれば定価の2倍で買い取りができてもおかしくありません。

ほかのブランドでも言えることですが、定価設定が高額すぎるモデルの場合、買いたい人が極端に限られるため、定価とのギャップが出やすい傾向にあります。思い違いをされている方もいらっしゃいますが、二次流通では定価が高ければ高いほど評価が高いというわけではありません。買取価格は需要と供給のバランスで決まりますので、リセール価格を重視する場合はその点を意識する必要がありますね。

※画像はコメ兵提供