今や花粉症は「国民病」と呼ばれるほど患者が増え、日常生活や仕事に著しく支障が出るほどの重篤な症状を呈するケースも珍しくない。一度発症してしまうと根治は難しい疾患ではあるが、近年はさまざまな治療法も出てきているようだ。
そこで今回、日本耳鼻咽喉科学会認定専門医の宮崎裕子医師に家庭でも実践できる花粉症対策や最新の治療法などについてうかがった。
治療前にまずはアレルゲンを特定
花粉症といえば、花粉が引き起こす季節性のアレルギー性鼻炎であることは広く知られている。その原因としてはスギやヒノキが有名だが、一般的なアレルギー性鼻炎はダニやハウスダストが原因で引き起こされるし、食物によるアレルギーという可能性もある。すなわち、アレルギー症状を緩和させたければ、「何のアレルゲンに対して反応が出ているのか」を詳しく知る必要がある。
そのような際は以下のような検査でアレルゲンを特定する。
■皮膚テスト……プリックテストやスクラッチテスト、皮内テスト、パッチテストなどが皮膚テストの代表例。さまざまな抗原エキスで皮膚を刺激し、皮膚の色の変化や腫れの状態でその抗原に対してアレルギーがあるかどうかがわかる。
■血液検査……少量の血を指先から採取し、特殊なキットに滴下して何に対してアレルギー反応が出るかを検査する方法と、一般の血液検査と同様に採血してアレルゲンを特定する方法がある。
舌下免疫療法に近年は注目が集まる
これらの検査を通じて明確に花粉由来の花粉症だとわかれば、症状の重篤度や本人の希望などを考慮したうえで、各々に見合った治療を実施していく。代表的な治療法を以下にまとめた。
薬物療法(内服薬・外用薬)
「主に抗アレルギー薬の内服と点鼻薬を使用します。アレルギー症状が強く出る人は、花粉の飛散開始の1~2周間前から使用を開始すると症状が弱くなることが知られており、これを初期療法と言います」
手術療法
「花粉症の手術としては、一般的なアレルギー性鼻炎の治療に用いられる『下甲介(したこうかい)粘膜焼灼術(しょうしゃくじゅつ)』が行われるケースが多いです。レーザーで鼻の中の粘膜を焼き、粘膜での反応を少なくして症状の軽減を図るという手術です。花粉が飛散する約1カ月前までに耳鼻咽喉科で行うといいでしょう」
免疫療法
「アレルギーの原因物質であるアレルゲン、一般的なスギ花粉による花粉症ならばスギのエキスを投与し、体に吸収させる方法です。この投与を継続的に行うことで症状を軽減させていきます。以前は注射で行われていましたが、近年は口腔内の舌の裏に投与する『舌下(ぜっか)免疫療法』が主に行われています。スギ花粉症の場合は5月末から12月末までに開始し、毎日自宅で1回、最低3年以上は継続する必要があります」
抗原エキスを服用するのには危険が伴うため、初めて服用する際は医療機関で医師の指導・監督のもとで行わなければならない。2日目以降は自宅やオフィスでも服用可能となる。
毎日数年間にもわたり、自ら「治療」を行うのは多大なる労力を伴うが、舌下免疫療法は臨床試験例で高い効果が確認されている。「今後数十年間にわたり花粉の季節に悩まされるのは嫌だ」という花粉症の人は、試してみる価値はあるかもしれない。
今日からできるお手軽花粉症対策
これらの治療とは別に、毎日の生活を送るうえで重要となる「セルフケアとしての花粉症対策」もいくつか紹介しよう。
■屋外における対策
(1)花粉の飛散量が多いときは不要な外出は控える
(2)外出時はマスクやメガネ、帽子を着用する
(3)衣類は綿や化学繊維など、花粉が付着しにくい素材のものを選ぶ
■屋内における対策
(1)帰宅した際は玄関先で衣類や帽子などの花粉を払い、屋内に極力花粉を持ち込まない
(2)帰宅後に洗顔とうがい(できれば鼻うがい)を行う
(3)飛散量の多い時期は窓や戸を閉めておく
(4)衣類をこまめに洗濯する
(5)部屋の掃除を励行する。この際、花粉がたまりやすい窓際は特に念入りに
(6)空気清浄機を使用する
「このほか、『過労』『過度のストレス』『睡眠不足』『栄養バランスが偏った食事』『タバコ』などが花粉症の症状を悪化させる要因として知られています。毎日の生活において、これらの要素に配慮することも花粉症対策と言えるでしょう」
自分に合った治療法を選ぼう
花粉症の症状の程度は、患者によってかなり異なる。鼻水やくしゃみが止まらないが、薬である程度症状が緩和できる人もいれば、仕事が手につかないほど目や皮膚がかゆくなる人もいる。実際、「目がかゆくて運転ができない」という悲痛な叫びも花粉症患者から聞こえている。目のかゆみに意識がいってしまえば当然注意散漫となり、事故のリスクも高まる。
薬物療法で症状の改善が見込めないようなら、手術や免疫療法を視野に入れる必要があるが、多忙で手術をする時間をなかなか割けない人もいる。花粉症の治療は、自身のライフスタイルや症状の程度などを総合的に勘案したうえで行うのが賢明と言えよう。
※写真と本文は関係ありません
取材協力: 宮崎裕子(ミヤザキ・ユウコ)
耳鼻咽喉科みやざきクリニックの院長。日本耳鼻咽喉科学会認定専門医 補聴器相談医 身体障害福筺祉法指定医師。毎日の診療をする傍ら3児の母でもあり、患者様の悩みに寄り添った診療を心がけています。