2019年が始まって早1カ月ほど。まだまだ寒い日が続くが、一部の人たちはある存在にそろそろ頭を悩ませ始める頃だろう。そう、花粉だ。日本気象協会は昨年12月、「2019年 春の花粉飛散予測(第2報)」において「花粉シーズンは2月中旬に九州や四国、東海、関東地方の一部からスタート」と予想している。恐怖のスギ花粉はもうすぐそこまで迫っているかもしれないのだ。
スギをはじめとする花粉でアレルギー症状を呈する人は増加しており、スギ花粉によるアレルギーに悩んでいる人は、全国平均で26.5%もいるとするデータもあるという。裏を返せば、国民の4人に3人はスギ花粉に苦しめられていないという計算になるが、ことはそう単純ではない。今現在花粉症ではない人も、将来花粉症になる可能性があるためだ。
本稿では、日本耳鼻咽喉科学会認定専門医の宮崎裕子医師の解説のもと、花粉症の症状や発症のメカニズムを紹介する。
花粉症発症のメカニズム
花粉症とは、植物の花粉が原因で鼻や目、皮膚などのさまざまな場所にアレルギー症状が引き起こされる病気を指す。このアレルギー症状は以下のようなメカニズムで起きている。
(1)花粉が体内に侵入する……花粉などの異物(アレルゲン)が体内に侵入すると、私たちの体はその異物を受け入れるか否かを判断する。
(2)異物を撃退するためのIgE抗体をつくる……体の免疫システムが花粉などの異物を「敵」と認識し、「排除すべき」と判断すると、異物と反応するための物質が体内でつくられる。この物質はIgE抗体と呼ばれる。
(3)花粉が再び体内に侵入する……IgE抗体ができた後に花粉が再度体内に侵入すると、花粉は鼻や目の粘膜にある肥満細胞の表面にあるIgE抗体と結合。花粉との接触が増えるほど、IgE抗体は体内に蓄積されていく。
(4)肥満細胞から化学物質が分泌される……IgE抗体が蓄積された結果、肥満細胞から化学伝達物質(ヒスタミンなど)が分泌される。
「この段階になると、体は花粉をできる限り体外に排出しようとします。ヒスタミンは鼻の付近を通る三叉神経や分泌中枢を刺激し、花粉症の代表的な症状であるくしゃみや鼻水を引き起こします。くしゃみや鼻水、涙で花粉を追い出し、鼻づまりで花粉を中に入れないよう防御するというわけです」
このように花粉症はIgE抗体が一定量に達すると発症する。ただ、花粉が侵入してきた際につくられるIgE抗体の量には個人差がある。そのため、発症の閾値に達するまでのスピードも人によって異なる。
一般的に「アレルギー体質」と呼ばれる人はIgE抗体がつくられやすい人と考えられるが、現時点で花粉症を発症していない人も、花粉との接触を繰り返すうちに閾値までの余裕が徐々に狭まっている。そのため、今後突然にアレルギー症状が出現する可能性もゼロではないというわけだ。
花粉症と合併しやすい口腔アレルギー症候群とは
そんな誰しもが罹患するかもしれない花粉症に伴う主なアレルギー症状は以下の通り。
■鼻: くしゃみ、鼻汁、鼻づまり
■のど: 咳、咽頭痛、のどの違和感
■目: かゆみ、流涙、目がコロコロする(異物感)
■皮膚: かゆみ、湿疹
■口腔粘膜: 口腔アレルギー症候群(OAS)
「口腔アレルギー症候群はあまり聞き慣れないかもしれませんが、ある特定の果物や野菜を食べたときに口や唇、のどなどの粘膜にイガイガ感などのアレルギー症状を起こす特殊な食物アレルギー疾患を指します。花粉症に合併するケースが多く、花粉の種類によって症状が出現しやすい果物や野菜があります」
例えば、春先から増えるスギ・ヒノキによる花粉症を患っている人は、トマトを食べるとOASが起きやすい。同様にイネ花粉症の人はトマトやスイカ、メロン、オレンジを、ヨモギ・ブタクサ花粉症の人はメロンやスイカ、セロリを摂取するとアレルギーが出やすいという。
また、北海道~本州中部に患者が多いとされているシラカンバ(シラカバ)花粉症の人は、リンゴやモモ、サクランボなどを食べる際には注意を払う必要がある。
「特定の食物を食べるとアレルギーが出る」という点は一般的な食物アレルギーと同じだ。ただ、食物アレルギーはじんましんや湿疹、下痢といった具合に症状が全身に出るが、大半の口腔アレルギー症候群は、口やのどなど、症状が出る部位が限定されるという特徴がある。症状の重症度が2つを見分ける際の一つの指標になると覚えておこう。
※写真と本文は関係ありません
取材協力: 宮崎裕子(ミヤザキ・ユウコ)
耳鼻咽喉科みやざきクリニックの院長。日本耳鼻咽喉科学会認定専門医 補聴器相談医 身体障害福筺祉法指定医師。毎日の診療をする傍ら3児の母でもあり、患者様の悩みに寄り添った診療を心がけています。