昨年の東京モーターショーに出展され、好評だったダイハツの新型「コペン」。今年6月の「コペン ローブ」発売から1カ月が経過し、すでに4,000台の受注を獲得したという。これから詳細が明かされるホンダ「S660」や、今後発売される「コペン」別バージョン2タイプを待ってから検討する人も多いであろうこの状況で、これだけのスタートダッシュは大成功といえるだろう。
「着せ替えカー」自体は過去にもあったが…
新型「コペン」の発売で最も驚いたのは、「ドレスフォーメーション」と銘打った着せ替え機能が本当に採用されたことだ。「東京モーターショーで派手なデモンストレーションもしたくらいだし、当たり前でしょ?」などと言うなかれ。コンセプトカーにおいて、「着せ替えカー」の前例はけっこう多くあるものの、市販までこぎつけたケースはごくまれなのだ。新型「コペン」も、市販化の段階でこの機能はなかったことにするかと思っていたのだが、ダイハツは見事にやってのけた。
過去の「着せ替えカー」で一番に思い出すのは、1989年の東京モーターショーに出展されたマツダ「AZ-550」だ。「スケルトンモノコック」なる構造で樹脂製外装を採用し、着せ替えできる構造とした点は、新型「コペン」とまったく同じ。3種類の異なるバージョンのボディを一斉展示したのも同じだった。
「AZ-550」はその後、スケルトンモノコックによる樹脂外装もそのままに、「AZ-1」として発売された。その意味では、「市販までこぎつけた着せ替えカー」といえるのだが、発売時点でメーカーは着せ替え機能を正式にアナウンスせず、着せ替え用パーツも発売しなかった。だから公式には「着せ替えカー」ではない。ただし、アフターパーツとしてさまざまな外装が発売され、高額ながら実際に着せ替えを楽しむことはできた。軽自動車の枠を超え、白ナンバー登録となる外装さえ発売されたというから驚く。
マツダは「AZ-550」以前にも、「MX-04」という着せ替えコンセプトカーをモーターショーに出展しているし、ダイハツもごく最近、2011年の東京モーターショーに、着せ替えできるオープンスポーツ「D-X」を発表している。トヨタは昨年、欧州でEVコンセプト「ME.WE」を発表したが、このモデルも樹脂製の外装パネルを着せ替えることができる。
「着せ替えカー」には技術面より難しい問題が…
そもそも、着せ替え自体は技術的にそう難しいことではない。外装が骨格を兼ねるモノコックフレームを採用した現代の量産車の着せ替えは難しいが、昔の自動車をはじめ、現代でも少量生産のモデルなど、外装に応力のかからないラダーフレームやバスタブフレームを採用したものが多い。モノコック以外のフレームのモデルであれば、外装を樹脂で作り、それを交換可能にすることは比較的簡単なのだ。
いままでこうした「着せ替えカー」が市販化されなかったのは、やはり技術面よりも法的な問題が大きいだろう。自動車のボディは、歩行者保護をはじめとしたさまざまな要因のために厳しい制約がある。それほどの重要パーツがいとも簡単に交換できるようでは、認可が難しいのは当然だ。まして日本のお役所は、こういった柔軟な発想をなかなか認めてくれない。
ここでもう1台、超レアな「着せ替えカー」を紹介しよう。日産が1980年代に北米で発売した「パルサー NX」だ。ごく普通の金属製モノコックボディだが、リアハッチを交換することでクーペからステーションワゴンへ、あるいはそれらを取り払い、Tバールーフを開け放してオープンカーへと、ボディタイプを変更できる「着せ替えカー」だった。
このモデルは米国でかなりの人気を誇ったそうだ。そしてここ日本でも、「エクサ」として発売されたのだが、クーペとステーションワゴンが別のモデルとして発売され、このモデルの最大の魅力である着せ替えができなくなっていた。そのせいなのか、「日本カー・オブ・ザ・イヤー」を受賞するほどの名車でありながら、販売面では惨憺たる結果となり、いまでは覚えている人もあまりいないほどだ。
「エクサ」の着せ替えが日本で省略された理由はとくに発表されていないと思うが、やはり認可の問題があったであろうことは想像に難くない。だからこそ、新型「コペン」発売のリリースを見て筆者は驚いたのだが、よくよく調べてみると、やはり若干のトーンダウンは避けられなかったようだ。
というのも、東京モーターショーでは、新型「コペン」の外装交換は自宅で数分でできるかのような演出で紹介されていたが、発売されてみると販売会社による作業が前提となっていたのだ。邪推になるが、その理由は交換作業が難しいからというよりは、ユーザー自身が交換するスタイルでは認可が受けられなかったからではないだろうか?
新型「コペン」にボディ劣化は起こりえない!?
それにしてもこの着せ替え機能、考えれば考えるほど、すごい可能性を秘めていると感じる。いまのところは、カスタムを容易にするちょっと変わったギミック、といった程度にとらえられていると思うが、それで終わる話ではない。一例を挙げると、「フロントフェンダーをガリッとやっちゃった……」、こんなときでも板金塗装の必要がなくなるだろう。フェンダーをパッと交換すればいいのだ。
こうなると、中古車になったときの価値にも影響するのではないだろうか? 通常、ボディのコンディションは中古車価格の非常に大きな要因であり、機能的にまったく問題がなくても、塗装が色あせているというだけで値がつかず廃車となってしまうことだって珍しくない。全塗装という手はあるが、それをちゃんとやると非常にコストがかかる上に、どんなにきれいに塗ってもオリジナル塗装とは明確に区別されるので、割に合わない。
しかし、新型「コペン」のように外装を交換できたら、ボディコンディションの良し悪しといった評価自体、無意味になるかもしれない。たとえばタイヤが摩耗していたとしても、中古車の価値に大きな影響はない。交換すれば済むことだからだ。新型「コペン」のボディも同じようにとらえられるとすれば、色あせやキズがあっても関係なくなり、すべてのクルマが避けられなかった「ボディの劣化」という呪縛から開放される可能性もある。10年経っても20年経っても値落ちしないモデルになるかもしれない。
もちろん、これは着せ替えの費用が十分に安かった場合の話だ。フェンダーを交換するより板金したほうが安上がりだったり、外装をすべて交換すると全塗装と変わらなような価格になったりするようであれば、着せ替え機能は誰も利用しない「絵に描いた餅」となり、後に笑い話のネタとなってしまうこともありうる。
しかし、着せ替えの費用が安くて大流行するようなことになれば、アフターマーケットでも格安の外装パーツが大量に出回るだろうし、それらの新品だけでなく中古品も盛んに流通するようになり、新たなマーケットが創出されるようなこともあるかもしれない。
だからこそ、ダイハツがこれから発売するはずの純正外装パーツの価格は非常に重要だ。おそらく普通に計算したらかなり高価になると思うが、ここはぜひ、戦略的な判断で思いきった設定にしてほしいところだ。