自動車の歴史において、「名車」はあまたあるが、他の名車とマツダ ロードスターが決定的に異なるのはその影響力だ。ロードスターが成功すると、世界中のメーカーから次々にオープン2シーターが発売された。

今年で誕生25周年を迎えたロードスター(写真は2013年、東京モーターショーで撮影)

たとえば、海外勢ではBMWのZ3とZ4をはじめ、メルセデス・ベンツのSLK、ポルシェのボクスターとMG-F、フィアットのバルケッタなど。やや毛色が異なるが、ロータス エリーゼも挙げておきたい。国産ではホンダ S2000、トヨタ MR-S、ダイハツ コペンがあり、4シーターまで枠を広げればトヨタ ソアラ(レクサスSC)や日産フェアレディZロードスターもある。

これらのモデルのいくつか、もしかしたらすべては、ロードスターの成功がなかったら存在していないかもしれない。もしロードスターが発売されていないパラレルワールドが存在したなら、そこはクルマ好きにとって非常に寂しい世界になっていることだろう。

このように、ロードスターが再構築したオープン2シーターというカテゴリーだが、いま現在はもうひとつ盛り上がりに欠けていて、残念なことだと思う。なにしろS2000もMR-Sもコペン(先代)もかなり前にディスコンになっていて、ロードスターのライバルと呼べるモデルは現時点の国産車にひとつもない。海外勢も人気モデルとして定着したのは大排気量のプレミアムカーばかりで、ライトウェイトといえるモデルは生き残っていない。

ロードスターの出来の良さが、他のオープン2シーターを駆逐してしまった

ボクスターやSLKのような高級モデルもいいが、若い人が現実的に考えられる、経済的にもライトウェイトなオープン2シーターがロードスターのみというのは寂しいことだ。なぜこんなことになったのか? ひとつには、やはりオープン2シーターの市場規模が限られていて、多くのモデルが共存することができないから、という理由もあるだろう。

しかし、これがライバル不在の理由のすべてであるとすれば、ロードスターがギネスブックに載るほど売れに売れたことの説明がつかない。他に考えられる理由は何かといえば、それはやはり、ロードスターの出来があまりに良すぎたからではないだろうか?

たとえば車重。初代の最も軽いモデルで940kg、厳しい衝突安全基準が課せられている現行モデルでも1,100kg前後だが、高価なプレミアムモデルのようにアルミやCFRPを使うことなく、この軽さを実現できるのはすごい。軽さにこだわっていると豪語するトヨタ86でさえ1,220kgあるし、ロードスター最大のライバルだったS2000は1,250kg前後だった。

もう1台のライバルだったMR-Sは、車格が小さかったこともあって1,000kg前後と軽量だったが、このモデルはラゲッジスペースがきわめて小さいなど、軽量化のために大きな代償を払っていた。だから成功しなかったというわけではないだろうが、スポーツカーにとっても、積載性や使いやすさといった実用性は意外と重要になってくるわけで、それをすっぱり割りきったモデルときっちり両立させているモデルがあったとすれば、(スーパーカーは別として)売れるのは結局後者なのだ。

その点で、ロードスターは十分な広さのトランクがあり、しかもオープンにしてもトランク容量が変化しない。現行モデルはリトラクタブルハードトップもあるが、このモデルでさえオープン時にトランク容量が変化しないのは特筆に値する。これなら、夫婦やカップルで2~3泊の小旅行に出かけ、かつその途中でいつでも気ままにオープンエアの爽快感を楽しむことができる。オープン2シーターを買ったら誰もが一度はやってみたいシチュエーションだが、これができるモデルは世界中を見渡しても少ない。

こうして振り返ってみると、ロードスターは自らの大ヒットによって多くのライバルを生み出し、そのライバルをことごとく駆逐してしまったといえる。とはいえ、直接競い合えるライバルがいないのは健全な状態ではない。

ダイハツ コペンやホンダS660が間もなく登場することは、たとえクラスが違っていても、ロードスターにとって喜ぶべきことだろう。これらのモデルが売れればオープンカーのマーケット全体の底上げになるだろうし、ライバルに負けじと改良することで、ロードスターもさらに進化するはずだ。

そのロードスターも、現行モデルの登場からすでに9年が経過し、次期モデルの具体的な情報も出てきている。その情報が正しければ、かなりドラスティックな変身を遂げるようだ。このモデルをベースにアルファ ロメオ・スパイダーも開発され、広島で生産されるという。もしタイムマシンがあれば、25年前に行ってこの話を吹聴して回りたいものだ。

そんなことをしたら歴史が変わってしまう? いや、その心配は不要だろう。誰もがまったく信用しないだろうから。