マツダ・ロードスターが誕生25周年を迎えた。これを記念した特別仕様車(ロードスター25周年記念車)が25台限定で国内発売されることになり、5月27日から始まった商談予約受付は早くも完了だという。環境志向の高まりでスポーツカーが次々と姿を消していく中、ロードスターの健在ぶりは日本の自動車業界全体にとって喜ぶべき快挙だろう。

ロードスター25周年記念車。国内では限定25台が発売される

ロードスターが誕生した25年前、業界筋の評価は低かったが…

ロードスターの誕生は1989年。当時、オープン2シーターのスポーツカーはほぼ絶滅状態にあり、世界中の自動車メーカーが見限ったカテゴリーと言ってよかった。その新型車をわざわざ作って発売しても売れるわけがない……と冷ややかに見られていたが、発売してみたら大人気。事前の評価を覆したマツダの大逆転劇として、この逸話は有名だ。

ただし、当時、自動車雑誌の編集部に在籍し、周囲が車好きだらけだった筆者の実感と比べると、この逸話はちょっと違和感がある。当時はバブル真っ只中でもあり、車好きはとにかく「かっこよくて楽しいクルマ」を求めていた。お金のある人はベンツだフェラーリだと輸入車に走ったが、お金のない若年層は安くて、しかもかっこいい「デートグルマ」を渇望していた。そう、当時の20代男性にとって、クルマはデートをするための道具であり、実用性や経済性などどうでもよかったのだ。だからロードスターの発売を知ったとき、多くの車好きはむしろ「売れるに決まっている」と思ったものだ。

25周年記念車は、「25年分の"Fun"を集約させた特別仕様車」(マツダ)だという

ちなみに、当時のマツダは販売チャンネルをトヨタ並みの5つに増やし、それに見合う車種をいっせいに発売するという、いまにして思えば途方もない前代未聞のミッションを遂行中だった。新設された販売チャンネル「ユーノス店」の販売モデルだったロードスターは、5チャンネル戦略の尖兵でもあった。

「ロードスターは売れない」と業界筋が決めつけたのは、5チャンネル戦略が明らかに無謀であり、そんな無謀な計画から生み出されたモデルもまた売れないだろうという、クルマの魅力そのものとは別のところで判断された面が多分にある。この予測は結果的に外れたものの、正しい分析ではあった。

この時期に発売されたマツダ車といえば、MS-9、MS-8、MS-6、ユーノス500、ユーノス800、ユーノスプレッソ、クレフ、クロノス、センティア、AZ-1、レビュー(改めて列記すると、あまりの数多さに驚く)などがあるが、この中には「名車」と評されるモデルも少なくない。とくにデザイン面ではどのモデルもきわめてレベルが高く、ユーノス500などはジョルジェット・ジウジアーロ氏が絶賛したとも伝えられている。

しかし、どんなにクルマが良くても、販売体制が弱いと売れないのが日本のマーケット。上記モデルは5チャンネル戦略の破綻とともに、そのほとんどが短命に終わった。

それを思うと、消滅した販売チャンネルであるユーノス店の専売モデルだったロードスターが生き残ったことは奇跡だ。車種を統廃合するなら真っ先に生け贄にされるのはスポーツカーと相場が決まっているのだが、マツダの場合はロードスターが生き残り、RX-7も長期にわたって生産された一方、本来ならメーカーの屋台骨となるべき4ドアセダンが総崩れとなった。皮肉といえば皮肉だし、マツダらしいといえばマツダらしい。