デジカメ購入後、フイルムカメラから遠ざかりつつもやはりフィルムに特別な思いを抱く人は多いのではないだろうか。また、写真を学ぶために、あえてフイルムカメラにチャレンジしたみたいという人もいるだろう。そこで今回は、デジタルとフイルムの折衷で撮影を続けるヒントを自らも「折衷派」であるマシマ・レイルウェイ・ピクチャーズの長根広和さんにうかがった。
銀塩写真法とフイルムの基礎知識
リバーサルフイルムの鮮やかさ 春・夏。写真左は春 JR陸羽西線高屋 - 古口(フジクローム ベルビア50)。写真右は夏 JR奥羽本線(山形新幹線)かみのやま温泉 - 羽前中山(フジクローム ベルビア50) |
光で分解されると黒色を帯びるという銀の塩(中和物)の性質を利用した写真技術を「銀塩写真法」という。19世紀前半、ちょうど商用の鉄道が営業を開始した頃に発明された技術である。現在のフイルムも、銀塩写真法の一種である。
フイルムは記録方法から2つに大別できる。明暗、色相が逆転して記録される「ネガフイルム」と、逆転しない「リバーサルフイルム」である。ポジをリバーサル(逆転)と呼ぶのは、フイルムに画像をネガで記録する層があり、それを現像処理で逆転、定着させているからだ。
さて、ここで長根さんが言う「フイルム」とは、35mm判のカラーリバーサルフイルムのこと。銀塩写真法全体の中での歴史は浅いが、ここ30年ほどは、プロの世界では主流として使われてきたフイルムである。昭和40年代後半生まれの長根さんは、リバーサルフイルム技術の成熟とともに成長してきたと言っても過言ではない。それだけに、思い入れも大きいようだ。「露出のラチチュード(寛容度)が狭く、シビアなのがリバーサルフイルムの特徴です。現場での厳しい一発勝負で学んできたから、今の自分があるんです」。
こんなときはフイルムで撮れ!
デジタルとフイルム、両方の良さを見極めて折衷していくという長根さん。「自然の美しさを豊かな階調と奥行きを表現できるフイルムに残すことは大きな喜びで、また最新のデジカメ技術への興味も尽きません」。フイルム、デジタルともに同じメーカーのカメラを使っているため、違和感なく使い分けられるそうだ。
では、我々素人が趣味として写真を楽しむ上で、どんなときにフイルムカメラで撮影したらいいのだろうか。1つは、シャッターを押す緊張と集中を味わいたい時。「現場で結果がわからない、コストがかかる、という緊張感や気合いを僕は大切にしています。リスクは大きいですが、気持ちは必ず作品に現れますから」。
もう1つは、時間に余裕がある時。「現場で結果が見えないということは、ロマンです。特に旅では、パトローネ(フイルムが入っている円筒)に満足感を詰め込んでいくような気持ちになります。そして、帰宅し、現像が上がってくるまでのドキドキ感、うまく撮れていたときの気持ちよさ、失敗したときの反省。それも全部、思い出になります」。
最後に、自然が最高に美しいとき。「自然が持つ豊かな色の階調や奥行き、特に、夕暮れのブルーのグラデーションの空は、フイルムの再現性が圧倒的に優れています」。時にはデジカメ撮影が主流の中で立ち止まり、フイルムのよさを味わってみるのもオススメだ。
ポジの扱い方
マシマ・レイルウェイ・ピクチャーズの写真の大半は、このようにマウント(現像されたフイルムをコマごと切り離し、厚紙などの縁で保護すること)され、ストックされている。ビュワーで下から光を当て、拡大ルーペで見て画面を確認する。なおこの連載では、筆者がこのようなポジフイルムをスキャンしてデジタルデータを作っている。
※連載24回、27回、29回、31回、36回はデジタルカメラで撮影