もうすぐ東海道新幹線区間から引退する500系新幹線。山陽新幹線区間でも、16両編成で走る姿は見おさめになる。記念に撮影したいという読者も多いのではないだろうか。カメラと画像ソフトの進化でプロアマの技術的な垣根がなくなってきている新幹線の撮影。プロは一歩進んでどう撮るのか。マシマ・レイルウェイ・ピクチャーズの長根広和さんにうかがった。
デジタルで誰にでも"作れる"新幹線の写真
500mm(35mm判フイルムカメラ。以下同様)の単焦点レンズに1.4倍のテレコンバーター(レンズの焦点距離を延ばす装置)を装着し、700mm相当の超望遠で撮影。左下の隅にラインが鋭角に集まるようにフレーミングし、500系のシャープなデザインを強調した |
かつてはプロかハイアマチュアにしか撮れなかった、走行中の迫力ある新幹線の写真。その理由の1つは、撮影に高価な超望遠レンズが必要だったということだ。新幹線は、在来線のように線路端には近づけないので、500mm(35mm判フイルムカメラ。以下同様)以上の超望遠レンズが必要になることが多い。これが軽自動車1台分以上の値段だったのだ。
しかし現在、デジタル一眼レフカメラの主流はAPS-Cサイズ。画像の記録面が35mm判フイルムの約半分強なので、300mmのレンズが500mmに近い倍率で使える。さらに、望遠側が300mm程度で10万円台というズームレンズが一般的になった。「F値が暗いという欠点はありますが、カメラ本体のISO感度を上げたり、撮影したデータを画像ソフトで明るくしたり、大き目のサイズで撮ってトリミングするなど、撮影技術以外の技まで駆使すれば、迫力のある新幹線の写真が作れます」と長根さん。「プロでも一歩間違えると、廃業に追い込まれそうですね」と苦笑する。
また、撮影技術そのものにも、プロアマの敷居がなくなりつつある。例えば、鉄道写真の技術として欠かせなかった「置きピン」(連載16回目参照)。これも、動いているものに自動的にピントを合わせる機能を搭載したカメラの出現で、過去の技術になりつつあるという。「連写性能、ピント合わせ性能に優れた鉄道撮影向けのカメラを選べば、新幹線の撮影は難しいものではありません。望遠レンズは手ブレしやすいので、手ブレ補正機能もチェックポイントです。今までにお話ししてきた在来線の撮影方法同様にチャレンジしてみましょう」。
感性を磨いて、自分らしく撮ろう
では、今、プロでなければできない新幹線の撮影とは何なのか。長根さんは次のように語る。「『新幹線とは、500系とは何ぞや? 』という問いを自分にぶつけ、自分なりの答えを写真で表現することです」。プロは撮影技術ではなく、感性を磨いて勝負するのだ。あまりにも抽象的なので、答えのヒントをいただいた。ヒントのひとつは「速さ」。「速さの表現には。流し撮りが一番です」と長根さん。連載18回目、19回目、34回目、35回目を参考にチャレンジしよう。
もう1つは「機能美」。「500系のとがった先頭部分は、単なるデザインではなく、空気抵抗を減らすために工夫された合理的な形です。ぼくは、こういう機能美が好きなんですよ」。長根さんの500系に関する話は多岐にわたり、延々と続いた。筆者が思うに、"感性を磨く"とは、"鉄道を好きになる"ということなのではないだろうか。下の作例を参考に、自分の500系を切り取ってみよう。
なお、500系が撮影できるお立ち台や駅では、すでに混雑が始まっている。長根さんから一言。「譲り合いの精神で、列車の安全運行を第一に考えて、撮影を楽しんでくださいね。人の頭が入ってしまっても、後から加工しよう、くらいのおおらかな気持ちで(笑)」。
長根さんが「500系とは何ぞや?」と自分に問うた作例
右上の角から右下の角へと半円状に線路を配置し、伸びやかな速さを表現。アンダー気味の露出で、説明的になるのを避けた。隣に700系が来たのはうれしい偶然。列車の速度は140km/hくらい。1/1000、F5、ISO200。レンズは300mm。
流し撮りのようにカメラをパンしながら、高速シャッターを切る「高速シャッター流し撮り」でシャープなシルエットを切り取った。背景の流れでスピード感を出すのが目的ではない場合の技術。列車の速度は270km/hくらい。1/1000、F5、ISO200。レンズは300mm。