見たままの色味で撮影するための機能である"ホワイトバランス"(以下、WB)。一眼レフはもちろん、ほとんどのコンパクトデジタルカメラにも付いている機能だが、その理論がわからず持て余してはいないだろうか。色味を変えられる便利な機能として、フィルター感覚で使うコツをマシマ・レイルウェイ・ピクチャーズの長根広和さんにうかがった。
そもそも、ホワイトバランスとは何か
長根さんが、コンパクトデジタルカメラのステップアップのために知ってもらいたいというマニュアル操作の要素は2つ。"明るさ"と"色味"である。明るさについては第27回でお話したので、そちらも是非一読して欲しい。そして、色味を操作する機能が今回扱う「ホワイトバランス」である。この機能は、「色かぶり(光源の性質が原因で、写真が見た目と違う色味に写る現象)」を補正するもの。カメラの中で色の成分の割合をデジタル変換するという、デジカメ特有の機能だ。
ちなみに、フイルムカメラでの撮影時に色かぶりを補正するために行うことは、光源の性質(色温度)に合ったフイルムの選択と、それと連動した色温度変換フィルター(LBフィルター)、色補正フィルター(CCフィルター)の使用である。大雑把な例えになるが、オートWBとはその場に応じたフィルターを自動的に付けた状態、そしてWBのモードを変えるということは、自分でフィルターを付けたり、外したりすることと似ているともいえる。
ここまでの話がわかりにくくても安心して欲しい。これらを理解する必要は低いと長根さんは言う。「簡単に写真の色味を変えられる機能がWBである、ということが重要なのです。難しく考えずに、早速使ってみましょう」。
WBモードを選び、温かい色の作品を作る
JR上野駅に行き、コンデジで食堂車の旅情を表現しようと決めた長根さん。車内は、温かな明かりの中でテーブルセッティングが進んでいる。窓に思い切り寄り、フラッシュをオフにした。そして、まずはWBオートで撮影してみたところ、見た目よりも白く冷たい色に写ってしまった。
「いろいろな光源が混じった食堂車では、オートWBの機能が複雑に働き、食堂車の温かい光の色まで打ち消してしまいました。フィルターを付けすぎた状態です。これでは、ぼくが表現したいような旅情が撮れません」。そこで選んだホワイトバランスは"太陽光"。「晴れた日中の太陽光の下では、複雑なフィルターは必要ありません。ですから、食堂車の温かい色を打ち消すような補正は、行われないのです」。 繰り返しになるが、この理論を理解する必要はない。どのWBモードで撮ればいいかわからなくても、色々なWBモードで撮影してみればいいのだ。「その中で、最も気に入った色に撮れたものを、自分の作品にすればいいのです。理論よりも、実践です」。WBモードごとの色味の一例は、欄外のコラムを参照して欲しい。
様々なシーンで使えそうなWB。しかし、本当の写真のテクニックはカメラの機能を使いこなすことではないと長根さんは言う。「ブルートレインの発車が迫るホームで、旅が始まる美しい瞬間を見つけて、切り取る。鉄道を好きでなければ身に付かないことで、それこそがテクニックなのです」。理論を覚える前に、素直に鉄道を見つめ、感動する気持ちを持ち続けたいものだ。
WBによる色味の違い
※(筆者のコンデジで筆者撮影)
機種、メーカーによって設定に大きな差があるのでこれは参考のみにとどめておき、必ず自分の機材で色味の確認をしよう。