今年の紅葉は駆け足だ。すでに見頃を過ぎてしまった線路際もあるだろう。そんな中、見頃が遅く、毎年美しく色付く木があるという。鉄道風景写真を撮るためには、鉄道だけではなく、自然への興味と知識も深めたい。紅葉の撮影について、マシマ・レイルウェイ・ピクチャーズの長根広和さんにお話をうかがった。

紅葉は逆光で撮れ!

中央本線の山梨県と長野県の県境付近を走るE351系スーパーあずさ

この紅葉した針葉樹は、カラマツの一種(以下、カラマツ)。カラマツは、広葉樹の紅葉が終わった頃、赤や黄色に色付くのが特徴である。カエデやイチョウほどは注目されず、紅葉することすら気付かない人もいるという地味目な存在だ。

しかし、長根さんはカラマツの撮影を好む。「その年の気候に左右されずに美しく色付くんです。カラマツは、裏切りませんよ! 」とうれしそうに語る。西日本エリアでは少ない木だが、中部地方より北では標高が上がれば線路際にも現れるので、探してみよう。ロケ先で色付く木や花の咲く木を見極めて記憶し、経験値を増やしていく。それもプロの仕事なのだ。

さて、紅葉の鉄道風景写真は、逆光か半逆光で撮るのが長根さんの原則。「葉を透過した光が紅葉をもっと鮮やかに、立体的に見せてくれるんですよ。特に、厚みがあるカラマツの葉は、順光ではあまり赤く写らないんです」。

構図作りは、主題と副題を設定し、大胆にメリハリを付けた画面構成にするのがポイントだ。長根さんは、主題をカラマツ、副題を列車に設定し、主題であるカラマツを画面の半分以上にたっぷりと配置した。「こうすれば、副題である列車が最も接近しても、ど真ん中に配置されることはありません」。構図については、(22)、(23)の記事も参照してほしい。

プロ、カラマツへの愛を語る

余談だが、ここはお立ち台(有名撮影地)でもある。一般的な鉄道写真の構図は、画面左の橋の部分だけをアップにして、列車を主題にしたもの。長根さん曰く、「カラマツを主題にして撮った鉄ちゃんは、僕が最初じゃないかな」。

カラマツのいいところは、「葉が小さいから向こう側が透けて見えるところ。それから、幹がいいでしょ。まっすぐで、縦線がきれいに並んでいて、わかるでしょうこの感じ。いいでしょ」。撮影データを聞こうとするも、カラマツの話を続ける長根さん。

やっと聞き出した撮影データは1/400、f4.5(ISO80)。レンズは70-200mmの100mm近辺(35mm判換算)。余裕があれば、一般的な紅葉の風景写真のデータとの違いを比べてみよう。風景写真は、もっと絞りを絞って、スローシャッターにするのが一般的だ。

木の話に終始してしまった今回のインタビュー。最後に、プロの大胆予想!? 「E351系あずさはもうデビューして15年を過ぎました。ここで撮るなら今がチャンスなのかもしれませんよ」。そう言われると、国鉄時代から活躍している列車が目立つ中央本線は気になる存在だ。