初心者が一眼レフを購入する動機のひとつが「ボケ味のある写真が撮りたい」ということではないだろうか。また、なぜコンデジはボケ味を出しにくいのか。今、流行の表現方法ともいえる「ボケ味」の作り方のうち、望遠レンズの性質を利用する場合について、マシマ・レイルウェイ・ピクチャーズの長根広和さんにお話をうかがった。
よりよく見せるために使うボケ味
近頃、写真全般で流行っている「ボケ味」。この連載でもテーマにしたいという筆者が提案すると、長根さんはまずこう明言した。「ボケ味のある写真を撮りたい、ということが撮影の動機になることは、僕にはありません」。
そうは言っても、この作品のかわいらしいボケ味。狙ったようにも見えるのだが。その撮影の裏側について、長根さんは次のように話してくれた。「実は、このコスモスは花の終わりかけで、株が小さく、スカスカでした。それを最大限によく見せるための苦肉の策として、ぼかしたんですよ。ごまかしたんですね」と言う。
ではこの場合、ボケ味でごまかせたこととは何だろうか。「花のボリューム感と、色彩です。特に黄色系は、ぼかした方が鮮やかになりますよ」とのこと。さらに、この作品では、ボリュームアップした花で道路を隠している。言われなければわからない、高度なテクニックだ。画像をクリックすると拡大画像が現れるので、右下部分をよく見てみよう。
望遠レンズの性質を利用したボケ味
「ボケ味の作り方は、大きく分けると2つです」と、話は続く。「レンズの性質を利用する方法と、絞りを開けて、ピントの合う範囲を狭くする方法です」。
この作品は前者で、望遠レンズの性質である"無限大に近いところにピントを合わせると、近くはボケる"ということを利用している。手順は次の通り。
- 望遠系のレンズを選び、ぼかしたいものをピントが合わないところに配置する。
- シャッタースピードを被写体ブレしない値に設定する(鉄道写真の基本として、1/500以上は必須)。
- 絞りでボケ味を調整する。
ちょっと難しい話になったので、初心者向きにも長根さんからアドバイスをいただいた。コンデジは、標準~広角系のレンズを使っているのでぼけにくい。「ピントを合わせたいものとぼかしたいものの距離をなるべく離し、ズームを使いましょう」。
さらに一眼レフでは、「第一歩として、この作品のデータで似たような風景をマニュアル撮影し、F値を前後に変えてボケ味を体感してみることです。ちなみに、花とレンズの距離は50cmくらいでした」。
上の作品のデータは、レンズは70-200mmズームの135mm付近(35mm判フイルムカメラ)。1/500、F4.5(ISO80)。
最後に、長根さんにボケ味についての考え方をうかがった。「本来ある美しいものを、その通りに写したいという気持ちが、僕の鉄道写真の基本。ただし、より美しい写真に仕上げるためにボケ味を使うことは、アリだと思います」。画面のほとんどをぼかしたり、列車のみをぼかすという表現については、「あってもいいと思いますが、僕の好みではありません。僕が撮りたいのは、美しい自然の一瞬を切り取る鉄道写真ですから」とのことだ。
「ボケ味」の使い方で写真家が表現したいことの本質が見える、と筆者は考える。そんな観点でいろいろな写真を鑑賞し、感性を磨きたい。
プロのおすすめ!便利グッズ
水準器は、写真の水平を出すためのもの。カメラと三脚に傾きはないか、確認に使うのだ。これは、一眼レフカメラ本体の外部ストロボを装着するミゾ(アクセサリーシュー)に差し込んで使う水準器。カメラを縦横、どちらにしても水準をとることができる。「数社から発売されていますが、機能は同じです。ミゾ自体が曲がっていると使えませんから、ミゾの状態を確かめてから使用してくださいね」(長根さん)。