前回に続いて、鉄道風景写真の構図を扱う。センスや才能を言い訳にしていたら、写真は上達しない。自分が何を伝えたいのか、明確な意志を持って努力あるのみだ。「最も基本的な画面分割も、誰にでもできる」と言うマシマ・レイルウェイ・ピクチャーズの写真家、長根広和さんに努力のコツをうかがった。

ど真ん中禁止! と頭に叩き込む

室蘭本線を走るスーパー北斗。天気がよければ、海の向こうに駒ヶ岳が見える

前回書いたように、長根さんは鉄道風景写真の撮影に当たって、まず"主題"と"副題"を設定する。鉄道は必ず副題になり、構図作りでは風景をどう切り取るかに重点がおかれるのだ。

上の作品の主題は「広い北海道の大地」、副題が「列車」である。鉄ちゃんなら、車両を見ただけでここが北海道だとすぐわかるだろうが、一般の人はそういう見方はしない。「鉄道に興味がない人にも、『一体、この大地はどこまで続いているのだろう、こんな広いところに行ってみたいな』と、思ってもらいたいんですよ」と長根さん。この目的の元に、構図が作られる。

構図のカギになるのは、空と地表(海+陸地)のバランスである。漠然と「空も大地も広いなあ」と思っていると、画面をど真ん中で分割してしまいがちだ(最後の「よくある失敗例」参照)。「主題は大地の広がりなのだ」という意志を持って、メリハリのある画面分割をしたい。そのために長根さんがしてきたことは、「とにかく、"ど真ん中禁止! "と頭に叩き込むのです。前回お話した"要素をど真ん中に配置しない"ということと並んで、画面をど真ん中で切らないということを覚えれば、構図はまたワンランクよくなります。ちょっと気を付ければ、誰にでもできますよ」とのことだ。

空と地表のバランスをおおよそ決めたら、次は田んぼの畦道が作っているパターン模様をどう切り取るか、ズームレンズで調整する。「パターン模様を上手に切り取れば、見る人は、田んぼが限りなく続いているように感じます」。こちらは、かなりセンスが必要な上級テク。しかし、ここでも目立つ畦道をど真ん中に入れないという点は最低限気を配りたい要素だ。なお、レンズは70-200mmズームの135mm付近(35mm判フイルムカメラ)、露出は1/500、f5(ISO80)。詳細は、下のイラストを参考に。

家でもできる簡単な構図の訓練とは

さて、鉄道風景写真は普通の風景写真と違い、構図の決定を瞬時に行う必要に迫られることが多い。そのために、長根さんが行なってきた訓練のひとつが「いい写真を、自分のカメラのファインダーを通して見る」というシンプルな方法。「ファインダーの中での列車の大きさや、要素の配置をリアルに体感できて、とてもいい構図の勉強になりますよ」。 前回の「メリハリ配置」、今回の「メリハリ画面分割」のふたつは、訓練で習得できるもの。根気よく挑戦し続けたい。

よくある失敗例
※上に掲載した長根さんの写真を筆者が加工

Aは、主題と副題のメリハリが弱い上に、列車で画面を二分してしまった例。列車にだけ気をとられていると、このような構図になってしまう。
Bは、メリハリを付け過ぎて空が狭すぎる。列車をど真ん中にしてしまったシャッターのタイミングもよくない。
Cは、水平線で画面を二分割してしまった例。画面が散漫として、気持ちのいい広がりが感じられない。