写真の出来映えを左右するのは、何といっても構図である。故に、センスや才能に乏しいからとあきらめてはいないだろうか。そんな方に朗報! 「最も基本的な配置の仕方なら、誰にでもできる」と言うのがマシマ・レイルウェイ・ピクチャーズの写真家、長根広和さんだ。1人の写真家の考え方を通じて、"構図を作る"ということに親しんでもらいたい。

長良川に沿って走る長良川鉄道。河原での撮影は、自分や機材が落ちないように細心の注意を払おう

「鉄ちゃんではない人々にも、『美しい自然の中を旅したいな』と思ってもらえるような写真、それが僕が目指す鉄道風景写真です」。この明確な目的の元に、長根さんは構図を作る。

最初にするのは"主題"と"副題"の設定。「僕の鉄道風景写真で主題になるのは自然で、鉄道は副題です」。長根さんが自然の美しさを最も強く感じるのは、鉄道という人工物が通り過ぎる瞬間だそうだ。「その瞬間を撮影していたのが真島(故・真島満秀)だったから、師事したのです。車両や自然だけが好きなら、他の先生のところに行ったでしょうね」。 そんな長根さんが、長良川鉄道の撮影にあたり主題に選んだのは、駅でも車両でもなく長良川。その流れの雄大さを象徴する、河原の水しぶきを主題にした。副題である長良川鉄道が見え、かつ河原に降りられる場所をロケハンし、最も水しぶきが上がっていた場所を撮影地に選んだ。「列車の顔が陰になっていますから、車両を主題にした鉄道撮影に適した場所とは言えません。でもいいんです、僕の主題は長良川ですから」(上の写真を参照)。

主題と副題さえ明確になっていれば、構図作りにセンスや才能はいらないと長根さんは言う。「主題と副題にメリハリを付けて、ポイントを画面の対角線上に配置する。基本はそれだけですよ」。そう言うと、長根さんは写真上に構図作りのコツを書き込んだ。まとめたものが、下の図である。

「構図がわからないという人は、たまたまよく撮れた自分の写真を見直してください。この配置ができている可能性が高いです」。自分の構図がなぜいいのか、悪いのか、それを知ることから構図のセンス磨きは始まるのだ。

河原では足場が悪かったため、カメラは手持ち。レンズは、16-35mmズームの24mm付近(35mm判フイルムカメラ)。露出は「広角気味なので、シャッタースピードは早めの1/800、絞りはF5.6(ISO200)」とのこと。「ほんのちょっとの意識で、構図は必ずよくなりますよ」という長根さん。早速"構図作り"に挑戦してみよう。

よくある失敗例
※上に掲載した長根さんの作品を筆者が加工

Aは、撮りたいものをど真ん中に据え、見る者に強烈な印象を与える「日の丸構図」。鉄道だけに気を取られ、風景写真としての構図の意識がないとこうなりがち。副題の設定を忘れずに。 Bも「日の丸構図」。ど真ん中の列車が強烈すぎて、川がパッとしない。主題と副題のメリハリを再考し、中心部には何も置かないようにしたい。 Cのフレーミングは完璧だが、シャッターのタイミングが悪い。主題である水しぶきの対角線上に列車が来たところで、シャッターを押そう。