青く晴れた海岸線を走る列車の写真は、一度は撮ってみたいと憧れがつのるシチューエーション。しかし、真夏の野外撮影が過酷なのはもちろん、撮影地がさわやかな場所とは限らないのだ。そんな撮影の裏側を、マシマ・レイルウェイ・ピクチャーズの写真家、猪井貴志さんにうかがった。
過酷な真夏のローカル線撮影
上の作品は、小さな山の中にあるちょっとした空間で撮影された。しかも、列車は日中、上下共に2時間に1本程度。撮影よりも待ちに行くようなものだ。「僕らはプロ。よりよいアングルを探すために、知恵と経験をフル活用してそういう場所に入ることもある。でも、普通に車が通る道からでも、十分きれいな海と列車の写真を撮れるよ」と猪井さん。素人である我々は、自分の体力や知恵、常識をわきまえて撮影地を決めたい。(『鉄ちゃんの掟』第8回、第11回参照)
夏は、普通の道ばたでも草ボウボウとなり、蚊はもちろん、ヘビ、ハチなどに遭遇する危険が大きい。「特にハチは危ないよ。刺された場合は、一刻も早く病院や民家に助けを求めること」と猪井さんは厳しい表情で語る。
撮影地に到着したら、アングルを確認して三脚を立て、カメラをセットする。それから列車到着まで延々と待つわけだが「この日は雲がなく、露出が安定しているから気持ちよく待てたよ。日影もあったしね」ととても楽しかった様子。余談だが、雲が流れ、太陽が出たり陰ったりするような天候の日は、露出が安定しないので待っている間中、気を揉むそうだ。しかし、プロはどんな自然条件も「それもまた楽しいよ」と言い切れるほどタフなのだ。
露出決定のカギは"海"よりも"順光"
このときの露出は、1/400、f7.1(フイルムISO100+1増感)。駅が近く、列車の速度が出ていないので、走行中の列車を撮影するときの標準的な値である1/500よりも遅いシャッタースピードを選択した。
ところで、海を背景にする場合、露出決定の注意点はあるだろうか。「要は、"海である"ということではなくて、"ベタ光(順光)"であるということ。ベタ光の場合は、TTL(カメラに内蔵された露出計)に素直になればいいんだ」。
それなら逆光の場合はどうだろうか。「逆光であっても、TTLに素直になることが第一。微調整の塩梅は経験次第だけど、デジタルだったらどんどん試し撮りすればいいよ」とのことだ。
いよいよ列車が来たら、鉄橋の右寄り、中央、左寄りと"バランスがいいな"と思ったところで連写する。鉄ちゃんの中には、ファインダーやライブビューを使わずに、列車が目印を通過するタイミングに合わせてシャッターを切る人もいるが、「最高の構図のためには、シャッターを切るときにファインダーを覗こうよ」というのが猪井さんのアドバイスである。
この日、約2時間に渡って3本の列車を撮影した猪井さん。撮影時間は1本につきわずか10秒程度。待ち時間に感じた気温や風、自然との一体感が、この一瞬に集約されているのだ。