止まっている車両の全体像をバランスよく鮮明に撮影した写真を「形式写真」という。カメラに高速シャッターがなかった時代には、この形式写真が鉄道写真の主流だった。現在は初心者でもすぐ走行写真に挑戦できるが、まずは基本として形式写真も知っておいてもらいたい。そこで今回は、駅のホームから止まっている列車を形式写真として撮影するコツを、真島満秀写真事務所所属のフォトグラファー・長根広和さんにうかがった。
できる限り姿勢を低く! 露出を絞る!!
現在、鉄道写真といえば走っている姿を撮影するもの。前回紹介したカテゴリー分けは走行中の列車の撮影に関してであり、これからのこの連載も、走行中の列車の撮影方法が中心となる。しかし、初心者にとって列車を撮りやすいシーンといえば、駅で"止まって"いるところが挙げられる。入門中の入門として、これを鉄道写真らしく「形式写真」として撮ってみたいではないか。では、プロはどのように撮るのだろうか。長根さんにお聞きしたが「私たちが駅のホームで車両の撮影をすることは、めったにないですよ。形式写真は車両基地で撮らせてもらいますし、普段の撮影は走っているところを撮りますからね」とつれない答え。「そこをなんとか」とお願いしてみると……。
「対向式のホームで、自分がいるのと反対側のホームに列車が止まったところを撮影します。自分がいるホームに入ってきた列車では床下が見えないので、形式写真といえる写真は撮れません」。
なるほど。「これから自分が乗る列車をパパッと撮っちゃおう」とお手軽にできる写真ではないのだ。続けて、「ホームの高さがあるので、立ったままでは列車を見下ろしていることになります。できるだけ低くしゃがむと、格好よく撮れますよ。そして、車両全体にピントが合うように露出をなるべく絞ること。デジタルカメラならF8~11くらいがいいでしょう。薄曇りから、天気が悪いくらいの日が形式写真の撮影に向いています」
正しい姿勢と安全への配慮
「でも、低くしゃがんだ不安定な姿勢で露出を絞ったら、手ぶれしてしまうのでは? それに、駅のホームでは三脚の使用は禁止されているし……」なんて心配している読者の方もいるのではないだろうか。しかし、心配は無用である。
「こういう構えですよ! 」と長根さんの実演が始まった。下のイラストを参考に、正しい姿勢を身につけてもらいたい。加えて、安全への配慮も一言。「黄色い線の外側には出ないこと。そして、自分のいるホームで『列車が来ます』というアナウンスがあったら、黄色い線の内側にいたとしても撮影は止めるべきです」
ところで、撮影の大前提となる「対向式のホーム」がどこにあるのかということは、どのようにして調べたらいいのだろうか。長根さんは、「かぶりつき!! (運転席の後ろから車窓を観察すること)」と一言。「撮りたいなら、探さなきゃ。順光になる駅なども、かぶりつきで探しますよ。たまたま列車が来たから撮るのではなくて、出かける前から探しておくことが大切です」。撮るためにはまず、探す。これこそがプロの仕事なのかもしれない。
形式写真の失敗例
筆者撮影。写真左がしゃがまないで撮った例。車体の遠近感がねじれているようだ。右はしゃがんで撮った例。こちらの方が車両が格好よく引き立っている。