鉄道風景写真のポイントとなるのは「主題と副題」という考え方。桜と絡めるのなら、主題が桜、副題が列車になるよう、思い切った作品にしたい。そのコツを、広角レンズでの構図作りが得意な真島満秀写真事務所の長根広和さんに伺った。

超広角レンズで桜を強調し、主題作り

3月後半からからゴールデンウイークまで、長根さんの携帯電話にはうっかり電話できない。桜を追いかけて、昼夜問わず、移動中または撮影中の可能性が高いのだ。「桜の理想的な状態は八分咲き、桜が映えるのは青空、雨が降ったら花は終わり。いい時は短いから、忙しいんです! 」。桜が八分咲きになった地域の中で天気がいい方に向かって、愛車とともに休まずに移動と撮影を続けているのだ。

JR越美北線で撮影。ちなみにこの前日はJR湖西線、翌日はJR高山本線を撮影したそうだ

鉄道風景写真を撮影するとき、長根さんはあらかじめ主題と副題を設定する。「こんな構図の写真を撮りたい」というイメージを固めてから、それにあった場所を探すのだ。もちろん上の作品の主題は桜、副題が列車だ。

長根さんがとりわけ得意としているのは、レンズの性質をいかした構図作りである。この作品に使用したレンズは超広角の16mm(35mm判フィルムカメラの場合。以下同様)。「超広角レンズは、下からあおって撮ると迫力が出るんです。それを利用して、桜を強調しました」。そう言われてみれば、列車は傾いていて、桜に対して異常に小さい。何故だろうか。「理論よりも実践です! 大きいカメラ屋さんで、16mmのレンズを覗かせてもらえばわかりますよ。写真は頭でなく、身体で覚えるんです」。現場での構図作りのコツは、下のイラストのような具合だ。

主題が桜でも、露出は鉄道写真の基本通り

広角レンズの場合、ファインダー内の列車の動きが非常に速くなるので、シャッタースピードは1/1000以上にするのが基本。ただしこの場合は、駅が近く列車の速度が出ていなかったので例外的に1/640を選んだ。それには、"絞り"を絞りたかったという事情もある。

「広角レンズは、絞りが開放に近くなると四隅が結像しにくくなるので、できるだけ"絞り"を絞りたいんですよ。それから、パンフォーカス(画面全体にピントが合っている状態)にして花をシャープに見せたいですからね」。そして絞りはF5.0になった。

さて、桜を主題にするのなら、風景写真の技術は参考にならないのだろうか。「ならないです。風景写真は基本的に絞れるだけ絞ってスローシャッターを切るでしょう。でも動くものを撮るときは、シャッタースピードが速くないと。主題が桜であっても、鉄道写真の撮影データを参考にして下さいね」。

ところで、長根さんは鉄道と関係のない普通の桜スポットには興味がないという。「どうして? 」と質問してみると、一瞬戸惑った後「電車が好きなんだよ」と照れくさそうに言う。なんだか、アテられたような気分である。ゆるぎない副題があるからこそ、主題が輝く。それが鉄道風景写真なのだ。

鉄道風景写真とは言えない例
筆者撮影、長根さんの評
「主題と副題がないね。列車が並んだから撮ったら、たまたま桜が咲いてたんでしょ」。実はそうなんです。ではどうすればいいのか。「桜を撮ろうとしたらたまたま列車が来た、くらいの感覚で撮ること。この状況だったら、僕は桜の写真は撮らないな」。