編成写真がすべての鉄道写真の基本になるのは、"走行中"という列車の最も自然な姿を写すからだ。例えるなら、野生動物の自然での表情を撮るようなもので、ロケ地や被写体への深い理解が必要になる。まずは、比較的簡単な「アウトカーブ0角度」のお立ち台(有名鉄道撮影地)での撮影について、真島満秀写真事務所所属の笠原良さんにうかがった。
※カーブを爆進して来るような独特の遠近感に、正面を向いた顔。このような構図の編成写真を、鉄ちゃんは「アウトカーブ0角度」と呼ぶ。
「走っている列車を撮る醍醐味といったら、アウトカーブ0角度なんですよ!! 」と、いきなり熱く語る笠原さん。さらに「カーブを進む列車は見かけの速度が遅いので、ピントが合いやすく、初心者にも撮りやすいですよ」とも。第3回の直線区間も"超基本"とお話したが、今回も編成写真入門に適した構図だ。ただし、撮れる場所はかなり限られているので、プロでも迷わず「お立ち台」を選ぶ。笠原さん曰く、「特にここは"300mmカーブ"と呼ばれていて、300mm(35mmフイルムカメラ)のレンズで、下のような構図を作れば、9両編成の特急が自動的に最高のバランスで収まります」。
ただし、この構図を作れる立ち位置はかなり狭く、「定員は3人くらいかなあ」とのこと。理想的な立ち位置に入れなくても、山の稜線とポールの位置を目安に、三脚を立てて構図作りをしたい。ファインダーかモニタにグリッドがあるとなお理想的だ。
そして、列車は必ず9両でここを通過するとは限らない。「編成が短いと構図が決まりませんから、9両編成の特急が来る時刻を調べてくださいね」と、ここを通過する様々な列車の両数をすらすらと解説する笠原さん。列車が何両なのを頭に入れておくことは必須だ。
ところで、「誰が撮っても同じような作品になる編成写真に意味はあるの? 」という疑問を持つ読者もいることだろう。編成写真は絵画に例えればデッサンのようなもの。野外で、自然の条件が違っても同じような写真を撮るということにこそ意味があり、高度な技術が必要なのだ。
余談だが、「理想的な編成写真」には写真家、事務所ごとに様々な考え方がある。ポールや標識などの鉄道施設を必ず構図に入れ込むプロ、イレギュラーなバランスであえて個性を主張するプロもいるのだ。いろいろな編成写真を鑑賞して、自分が目指すデッサンを見つけて欲しい。
ところで、笠原さんは少年時代に、編成写真の撮り方をどのように覚えたのだろうか。「鉄道雑誌に載っているかっこいい写真を見て真似しましたよ。列車は、家には持って帰れないですからね、必死でした。ボクにとって編成写真を撮るというのは、列車の剥製を作るようなものなんです。一番かっこいい姿をカメラに納めて、持って帰りたいんですよ!! 」。
大人になっても、やはり持ち帰ることのできない大好きな列車をカメラに納める笠原さん。この愛こそが、プロへの道だろうか。恐るべし鉄ちゃん魂。