「プラグインハイブリッド車」(PHV)の名を高からしめたのは、トヨタ自動車の「RAV4 PHV」ではないだろうか。というのも、2020年6月の発売から1カ月も経たないうちに生産予定台数がいっぱいになり、受注を停止するという人気ぶりを見せたからだ。2021年2月に販売再開にこぎつけたRAV4 PHVに改めて試乗し、その魅力を探った。

  • トヨタの「RAV4 PHV」

    2020年6月に発売となったトヨタの「RAV4 PHV」。月間300台の販売目標を掲げていたが、発売から1カ月も経たないうちに2020年度の生産予定台数が完売となり、受注を停止していた

売り切れは必然?

受注停止については、いろいろなニュアンスの報道があった。トヨタでは当初から、月販300台では少なすぎると認識していた開発関係者が少なくなかったものの、販売サイドの上層部が台数を慎重に見込みすぎたという事情があったようだ。いずれにしても、バッテリーの調達が主要因で生産が立ちいかなくなり、さらにコロナ禍の影響も重なって、半年あまりが経過した2021年2月になってようやく、受注再開のはこびとなった。

ご存知のとおり、トヨタにはプラグインハイブリッド車(PHV)の先駆者として、すでに「プリウスPHV」が存在する。2代目となる現行型は、初代に対してEV走行距離を倍以上に伸ばしたほか、より差別化を図った内外装やソーラー充電システムを採用するなどした意欲作ながら、売れ行きは芳しくない。理由はハイブリッド仕様の普通の「プリウス」で十分に満足できるからという面が大きいとみられる。最近では、そのプリウスすらも低調だ。

  • トヨタの「プリウス PHV」

    トヨタの「プリウス PHV」。EV走行距離は60キロだ

そんな事情を受けてか、RAV4 PHVには「走りのよさ」というわかりやすい付加価値が与えられていることが、以下よりご理解いただけるかと思う。

SUVというのは大がかりなシステムを搭載するためのスペースの面で有利で、4WDとの相性もよいというパッケージング面での優位性がある。トヨタにはPHV開発のベースとなりそうなSUVがいくつも存在するが、「TOYOTAブランドのクロスオーバーSUVを力強く牽引する」世界戦略SUVと自身が位置づけているRAV4に白羽の矢を立てた。

「THSⅡプラグイン」と呼ぶ新しいシステムは、プリウスPHVの発展版というよりも、RAV4のハイブリッド仕様の4WDをベースにフロントモーターとインバーターを高出力化し、大容量高出力の新型リチウムイオンバッテリーと組み合わせたものとなっている。

RAV4ハイブリッドが最高出力177ps、最大トルク219Nmであるのに対し、RAV4 PHVが搭載するA25A-FXS型エンジンはなぜかスペック的に微減となる。5NM型フロントモーターの最高出力と最大トルクは、ハイブリッド仕様の120ps、202Nmから大幅増の182ps、270Nmと強力だ。「E-Four」(電気式4WDシステム)のための4NM型リアモーターは54ps、121Nmと共通で、RAV4 PHVのシステム最高出力は306psに達する。

  • トヨタの「RAV4 PHV」

    エンジンとモーターを合わせた「RAV4 PHV」のシステム最高出力は306ps

カテゴリーの先駆者であり「ツインモーターAWD」を掲げる三菱自動車工業のPHVは、フロントよりもリアモーターのほうが性能が高いのが特徴だが、ハイブリッド仕様も含め、トヨタの新しいE-Fourも後輪へのトルク配分を増加しており、運動性能を意識したものとなっていることに違いはない。

総電力量18.1kWhのリチウムイオンバッテリーを搭載するRAV4 PHVは、WLTCモードでのEV走行概算距離が95キロに達する。さらには、ガソリンタンク容量もハイブリッド仕様と同じ55リットルを確保。ハイブリッド走行では、ハイブリッド燃料消費率の22.2km/Lに55Lを乗じ、件の95キロを加えると、実に1,316キロも走れる計算になる。

車体中央の床下に搭載した大容量のバッテリーは低重心化と重量配分の前後バランスの改善にも寄与している。車検証によると車両重量は1,940キロで、前後のバランスは前軸重1,110キロ、後軸重830キロ。ご参考まで、RAV4のハイブリッド仕様は同940キロ、690キロだ。

なお、急速充電機能は備えていない。PHVは普通充電のみというのが世界的にはスタンダードであり、むしろ、急速充電に対応した三菱のPHVのほうが特別といえる。

速くて上質、価格も納得感あり

RAV4 PHVをドライブした第一印象としては、かなり速いことに驚いた。プラグインハイブリッドシステムの潜在能力をいかして「Fun to Drive」を追求したというトヨタの主張に嘘はないようだ。306psで0-100km/h加速(停止状態から時速100キロまでの加速に要する時間)6.0秒はダテではない。極めてレスポンシブかつパワフルであり、しかもドライブフィールは上質だ。

  • トヨタの「RAV4 PHV」

    速いが乗り心地は上質

アクセルを強めに踏み込んだり、ヒーターを使ったりしてもエンジンがかかりにくく、日常使いのほとんどをEV走行でカバーできる。さらにEVモードを選択すると、驚くほどEV状態のまま粘る。

EVモードのままスポーツモードに設定できるのもポイントで、全開にしてもエンジンをかけることなく、EV状態のままけっこうな瞬発力を見せる。逆にエコモードを選択するとその通り重々しい感じになるのは、意図的にエコを演出している面もありそうだ。

また、RAV4のキャラクターに合わせてトレイルモードも設定されているほか、充電優先や自動的にEV/HVを切り替えるなど、さまざまなモードが選択できるようになっている。

  • トヨタの「RAV4 PHV」

    さまざまな走行モードが選べる「RAV4 PHV」

もうひとつ、RAV4 PHVで特徴的なのが、RAV4ブランドの最上級モデルと位置づけられていること。それは、内外装の各部に件のことを象徴する専用装備が与えられるあたりにも表現されているが、ドライブフィールでも最上級モデルにふさわしい味を追求したことが伝わってくる。

感心するのは、極めて静かなことだ。これには、吸遮音材の最適配置をはじめ、ダッシュパネルやフロアの吸音材範囲を拡大したり、接合部の隙間も細部まで埋めて車内への音の侵入を抑制したり、高遮音性ガラスを採用して風切り音の低減を図るなど、入念なノイズ対策が施されたことが功を奏したようだ。さらには、優れた操縦安定性や重厚感のあるしなやかな乗り心地を追求した足まわりのチューニングにより、上質な乗り味に仕上がっている。

  • トヨタの「RAV4 PHV」

    静粛性も極めて高い

PHVとして期待される外部給電機能については、ラゲージ内のアクセサリーコンセントのほか、付属のヴィークルパワーコネクターを普通充電インレットに差し込めばよい。エンジンをかけずにバッテリーだけ使うEV給電モードと、バッテリー残量が所定値を下回るとエンジンをかけて最大3日程度の電力を供給するHV給電モードにより、最大1500W(AC100V)の給電が可能となっている。

価格は「G」が469万円から、「ブラックトーン エディション」が539万円。ハイブリッド仕様の4WDは「X」が359万6,000円、「G」が402万9,000円だが、外部からの充電、外部への給電、洗練された走りなど、付加価値の大きさを考えるとPHVはむしろ割安に思えてくる。受注が殺到したのも納得だ。近いうちにまた販売停止という事態に陥りかねない気もするが、おそらくトヨタもすでに何らかの手を打っているに違いない。