これから増えていきそうな電動車「プラグインハイブリッド車」(PHEV)だが、では実際に、日本では今、どんなクルマが購入できるのか。まず押さえておきたいのは三菱自動車工業の新車「エクリプス クロスPHEV」だ。ガソリンエンジン搭載モデルも走りは良かったが、PHEVで選べる走行モード「ターマック」はかなり高度な仕上がりだった。
もとからよく走った「エクリプス クロス」
三菱自動車工業の「エクリプス クロス」は、2018年に日本で発売となったコンパクトなクロスオーバーSUVである。三菱自のSUVには「RVR」と「アウトランダー」があるが、エクリプス クロスはその中間に位置する車体寸法だ。
当初は排気量1.5Lのガソリンターボエンジンのみだったが、2020年には外観に手を加えるマイナーチェンジを行い、あわせてプラグインハイブリッド車(PHEV)を追加した。プラグインハイブリッドのシステムは「アウトランダーPHEV」のものを継承する。
SUVといえば小型であっても車高が高めで、4輪駆動を採り入れることもあるので、背の高さや車体の重さが影響し、走りがややおとなしい印象であったり、応答が遅れ気味であったりする車種もあった。そんな中、2018年に登場したエクリプス クロスで印象的だったのは、まるで小型ハッチバック車でも運転しているかのような機敏な走りだった。
遠目にはやや厚みがあるように見える後ろ姿も、よく見ると厚さを感じさせているのはリアスポイラーの存在であって、実はリアウィンドウをかなり傾斜させたスポーティーな姿であることに気が付く。それでいて、リアウィンドウ部分の傾斜が後席頭上の空間を制約することはなく、リアシートに座った際の快適性が保たれている。実用性と外観の壮快さを両立する造形なのだ。アウトランダーに比べると荷室容量は小さいが、実用面では十分に荷物を載せられる広さが確保されている。
重さを感じさせない走りに感心したPHEV
そのエクリプス クロスにPHEVが加わった。システムはアウトランダーPHEVのものを活用しているが、制御などには手を加え、コンパクトSUVらしさを体感できるよう工夫している。
工夫のひとつはエクリプス クロスPHEVにのみ設定された「ターマック」(舗装路)という走行モードだ。ターマックモードを選ぶと、前後駆動力配分と4輪のブレーキ制御の組み合わせにより、ハンドル操作に対する曲がりがよりよくなる。これにより、運転感覚がいっそう機敏になるのだ。
公道で試乗する前に、サーキットのテクニカルなショートコースでターマックモードを試した。アクセルペダルを踏みながらハンドルを操作すると、グッとカーブの内側へ切り込むように姿勢を変え、なおかつ駆動力が4輪に十分に掛かって、グイグイと前進していく。やや恣意的な挙動ではあるが、かといってわざとらしいと感じる違和感はない。試乗記で「オン・ザ・レール」などと表現される挙動だが、あたかも線路の曲率通りに的確に曲がっていくかのような印象をもたらす旋回性能である。
この積極的な旋回性能は、三菱自が世界ラリー選手権(WRC)を戦っていた折、「ランサーエボリューション」で開発した4輪駆動の電子制御技術を基にしている。したがって、高性能であるだけでなく、運転感覚に違和感のない高度な仕上がりとなっているのだ。
その走りは、エクリプス クロスのガソリンターボエンジン車に初めて試乗したときの印象を思い出させた。PHEV化によりモーターやリチウムイオンバッテリーなどを追加で積んでいるため車両重量は増えているが、その重さをはねのけるような運転感覚なのだ。
上級で壮快! 2つの魅力をいっぺんに味わえる
標準の走行モードは重量が増加した分、落ち着きのある乗り味になっている。アウトランダーほど重厚ではないが、モーター駆動による静粛性の向上もあって、より上級な車種に進化した印象である。
つまり、エクリプス クロスは1台で「上級さ」と「壮快さ」の2つを味わえるコンパクトSUVであるといえる。こうしたSUVは競合でもそう多くない。例えばトヨタ自動車「RAV4 PHV」は、似たような乗車感覚が得られる。しかし、RAV4 PHVは生産が間に合わず、受注を一時停止中だ。したがって現状では、エクリプス クロスPHEVが唯一の存在といえるだろう。
輸入車ではボルボ「XC40」のPHEVが競合となるだろう。しかし、エクリプス クロスPHEVの車両価格が384.89万円~447.7万円であるのに対し、XC40のPHEVは649万円で約200万円の差がある。もちろん好み次第であるとはいえ、エクリプス クロスPHEVの価格と価値の調和は注目すべきポイントだ。
三菱自の「電動ドライブステーション」という取り組みも、PHEVを所有していることの価値を高めてくれる。これは自宅に太陽光発電設備を設置し、電動車と統合制御することで災害などに対処できる機能だ。EVやPHEVは容量の大きいリチウムイオンバッテリーを車載しているため、クルマから家に電力を供給することが可能。それにより、生活に安心をもたらす。こうした取り組みを行っているのは三菱自や日産だけであり、日本車しか対応していない点なのだ。
気候変動の進展により、自然災害の甚大化が現実となっている。エクリプス クロスPHEVは単に魅力的な新車としてだけでなく、暮らしの安心を手に入れるうえでも見逃せないクルマなのだ。