「Intuos4」を使ってデジタルイラストを描く時、面で描くのは楽だが、線を描くのは案外難しいと感じる人が多い。絵のスタイルには大きく分けて、マンガやアニメのように線で表現するタイプと、油絵のように面で表現するタイプがあるが、マンガやアニメの作成にIntuos4を使っていても、線画はアナログ原画をスキャンし、彩色だけにIntuos4を使うという人が多い。なぜ線画は難しいのか? 今回はIntuos4で線を描くことについて考えていきたい。

線の表現とはなにか

日本人は世界でも類を見ないほど「線画」が好きな民族だ。大和絵、浮世絵などの伝統的な日本画から、現代のマンガ・アニメまで、日本の絵画はひたすら線による表現が主流だ。これは線画は下絵だけに使うもの、とされてきた西洋美術と正反対の価値観だ。

絵の中の線は、立体と空間や、面の境界を表す。だが現実にはそんな線は存在しない。つまり、線というのは人間の脳が作り出している、観念的な存在なのだ。実際には存在しないものだから、人によってどのような線がどのような意味をもつのかは異なるし、文字の筆跡のように、だれが描いても個性が際立つ表現である。

自然には線が存在しないが、人間は線で描くことができる。陰影のない線だけでも物の形や立体感がわかる。考えて見れば不思議な能力だ

「ArtRage」のトレースを解説した回で紹介したように、面で描いていく表現は、突き詰めれば写真にどんどん近付いていく。それに対し、「Photoshop」で輪郭の抽出を行って写真を線画風に加工しても、その線には描かれた方向性が無く、線としての魅力が感じられない。

日本人がこれほど線を好み、線にこだわるのは、俳句や茶室などと共通する日本人の美意識だ。単純な言葉やフォルムを世界に見立てて、想像力を喚起させることを「面白い」「美しい」と感じるのだ。これは力で自然を克服するのではなく、自然とうまく折り合いをつけ、共存してきた民族性の現れだろう。

線の表情を決める要素

線は「入り」、「本体」、「抜き」という3つの部分があり、それぞれをどう描くかで線の表情が決まる。「入り」と「抜き」は線の描き始めと終わりの部分。しっかり止めればかっちりした印象になり、すっと流れるようにすれば立体感を感じる表現となる。

入りとヌキは、書道という文化のある日本人には親しみがある表現

線の本体部分はなめらかに描く場合と、わざとビビらせて描く場合がある。前者は線の方向が強調され、線でありながら面、立体感を感じさせる表現となる。後者は線そのものが主張し、立体感というより、絵としての面白さとなる

なめらかな線と、ビビらせた線の例

全体の線の強弱、入りと抜きは、物の陰影の表現に用いられる。光が当たって明るい部分を細く、影になっている部分を太く描くことで、線画でありながら立体的な面を感じる絵となるのだ。

線が一定のマーカーと、線に強弱がつけられるペンによる、マンガ表現の違い。線の強弱、太さを使い分けることで、立体感を表現するのがマンガ的なスタイル。アニメでは線の強弱を複数の動画で再現するのが難しいので一定幅の線で描かれる場合が多い

「Intuos4」で線を描く

Intuos4でこれらの表現を行うのは難しい事ではない。「Intuos3」までは筆圧の調整に限界があり、入りや抜きのコントロールは難しかったが、Intuos4ではかなり軽い筆圧でも変化をしっかりとと拾ってくれるので、入りと抜きの表現にも十分対応してくれる。しかし、それでも線画が難しいと感じるのは、曲線を描きながら、筆圧をコントロールしなくてはならないからだ。これを上手に行うには、盤面の適正な摩擦が重要。以前にも紹介したが、Intuos4にはフェルトやエラストマーといった、摩擦の大きい芯が用意されている。また、盤面に紙を敷くことで、劇的に摩擦が変わる。これらの工夫を行えば、標準の状態よりもずっと曲線のコントロールが楽になる。

曲線を描くのが難しいもうひとつの理由は、紙は自由に角度を変えられるが、パソコンにはその自由度がないという事。マンガ家やアニメーターの場合、紙をぐるぐると回転させながら、線の方向が描きやすい角度に紙をあわせて、線を引いている。

右利きの場合、図のような方向は手首や肘を軸にした回転となり描きやすいが、それ以外の方向では非常に描きにくい。紙を回転させれば、適正な方向への線が引きやすくなる

「Photoshop CS5」など、キャンバスの回転機能があるアプリケーションを使うのであれば、Intuos4のホイールを使い、アナログ感覚で画面を回転させることができるので、積極的に使おう。

ただ、これらの方法を活用しても、鉛筆やペンで紙に描くよりも、Intuos4で線画を描くのはやや難しく神経を使うの。そこで利用したいのが、アプリケーションに搭載された「手ぶれ補正」などの、線画作成の補助機能だ。次回は様々なアプリケーションでの線画補助機能を紹介していきたい。

Illustration:まつむらまきお