前回はマンガならではの表現、スクリーントーンをデジタルで行う方法を紹介した。今回も引き続き、「Intuos4」を活用したデジタル作画の様々なメリットを紹介していこう。

トーンを削る

スクリーントーンが導入されて以来、漫画の世界では様々なテクニックが生み出され、それが漫画独特の表現となっていった。印刷製版がすっかりデジタル化された現在では、漫画原稿を白黒二値で描かなくてはならない理由はほとんどなくなってきているのだが、表現としてトーンワークは漫画に欠かせない。その代表的なものが、スクリーントーンの表面をナイフで削るというテクニックだ。スクリーントーンは当初、ノリが付いた面にパターンが印刷されていた。この時代は単純にグレーや柄を表現できるだけだったが、パターンの印刷面が表に変更され、これによりパターンを「削り取る」ことが可能となった。

トーンの削りは細かい部分の塗り分けや、境界をぼかすのに使われる。空や雲、やわらかい光の表現などによく使われるテクニックだ。グラデーショントーンを使う場合もあるが、画面が平坦、人工的になりすぎる。あくまでも「手で描かれた線を楽しむ」というのが漫画ということで、トーンを削る技法は漫画には欠かせない。デジタルでの制作ではグラデーションやグレーのボカシも簡単にできるが、ペンタブレットを使って手で削る方が漫画らしい画面になる。

デジタルならではのメリットとして、最初からかすれたブラシで、トーン柄を使って描くこともできる。アナログのトーンでは削りすぎは禁物だが、デジタルでは描き加えたり、消したり自由自在という点が大きな魅力だ。

トーンを削った表現を使って、トーンの境界をぼかす。拡大してみると、点が様々な形に欠けているのがわかる。こういった手仕事のニュアンスを表現できるのが「Intuos4」の強み

トーンの重ね貼り

トーンの重ね貼りもアナログ作画でよく使われるテクニックだ。トーンの点は規則正しく並んでいるので、そのままでは平坦な感じになってしまう。重ね貼りをすることで、モアレ模様が発生し、面白い効果、深みが出せる。「comic studio」でもトーンの目の角度を変更できるので、わざとモアレを発生させることが可能だ。あとからトーン風に加工するのでなく、トーンの網を見ながら加工することではじめてできる表現だ。

左は単純な重ね貼りで、同じ線数のトーンなので点の位置がぴったり合っている。右の画像は一方のトーンをすこし傾けた例。モアレが発生し、深みが出ている

ベタを削る

トーンだけでなく、ベタ塗り(黒く塗りつぶした表現)修正が後からできるのもデジタルの強み。アナログではベタを塗ってしまうと、線とベタ部分の境界がなくなってしまうため、白い部分を残して塗るのが基本だが、デジタルでは主線とベタを別レイヤーにすることで、主線を保護した状態でベタのみ修正ができる。バケツツールなどでおおざっぱに塗ってから、細かい部分を修正していくことができるので、画面全体での明暗効果を試行錯誤しながら作業ができる。特にcomic studioではレイヤーの表示色と透明度を変更できるので、髪の毛のハイライトなどを主線を参考にしながら、ベタを削っていく、というスクリーントーン感覚での作業が可能となっている。

髪の毛のハイライト塗り分け。まずバケツで単純に塗り込み(左画像)、次に筆圧を効かせたブラシでハイライト部分をけずる(中央画像)。最後に墨色で境界部分にタッチを入れる(右画像)。ここではベタレイヤーを青色で表示させている

フルデジタル化のメリット

ここまでは仕上げ、トーンワークのデジタル化について説明した。スキャンした原稿を加工することに関しても、デジタル化では大きなメリットがある。制作をすべてデジタル化しIntuos4で描けるようになれば、自由度はさらに増す。アナログ原稿では「下書き」、「ペン入れ」、「下書きを消す」、「背景などの描き込み」、「トーンワーク」、「ホワイト修正」という順番で行う。トーンワーク、ホワイト修正のあとは、基本的にペン入れはできない。これはトーンやホワイト修正した上からペンで描き込むのが困難(乾かなかったり、線の太さが変わってしまったりする)だからだ。したがって、トーンを貼る前に、貼った後の状態をイメージしながら、ペンを入れ描き込みを終了させておかなくてはならない。ところがデジタルで描くようになると、トーンを貼ってからタッチを加筆したり、主線を自由に消したり、下書きを最後まで残して置いたりなど、順序の制約が一切なくなる。デジタル化=合理化ととらわれがちだが、マンガの作画作業をより「絵を描く」という本来の作業に戻してやることが可能となる。

背景用下絵(青)、人物用下絵(茶)、主線、ベタ、トーンなどのすべてを表示している状態。アナログな原稿作成では、画材の制限から生まれた手順にしばられるため、こういう状態は考えられない。フルデジタル化することで、いかに制作の自由度が高まるかがわかるだろう

このようにメリットの高いデジタル制作だが、注意点がないわけではない。デジタルだといくらでも拡大、細かい描き込みができてしまうので、印刷してみると、描き込みの密度がコマによってチグハグになってしまいがち。ペン画をペンタブレットで描くのは難易度が高いが、comic studioでは描画中、描画後に線をなめらかに補正してくれる機能も用意されている。ただし、補正もやりすぎると絵の魅力が低下する。Intuos4ならではのアナログ感を補正機能で消し過ぎないようにしたい。

2回にわたってIntuos4を活用したデジタル作画による漫画制作について紹介してきた。Intuos4で、ぜひともフルデジタルでの制作にも挑戦してみて欲しい。

Illustration:まつむらまきお