指先の微妙な筆圧をコンピューターに忠実に伝えてくれる「Intuos4」。その卓越した性能が実感できるのが、塗り重ねの技法だ。今回はそのスペックの高さを実感できる彩色方法を紹介しよう。
実際の絵の具での3つの彩色技法
アナログの絵の具で色を塗る手法には、大きく分けて3種類の方法がある。ひとつめは最初から目的の色で塗り分ける方法。いわゆる「アニメ塗り」や、シルクスクリーン版画のような、色面をはっきりと区分けして表現する方法。これをデジタルで行うと、連載4回目で紹介したようなバケツツールを使った塗り分けとなる。
ふたつ目はキャンバス上で絵の具を混ぜていく方法。油彩がその代表で、色の混ざり具合のムラが色面の表情になる。
3つ目は半透明色を塗り重ねていくことで、徐々に目的の色に近づけていく方法。透明水彩がその代表的な例だが、たとえば緑色に塗りたい時、最初から緑で塗るのではなく、黄色を塗って乾いてから、青を塗り重ねる。セロファンを重ねると色が変わるのと同じ理屈で、緑色になる。この方法の特徴は、色にムラとズレができるところ。平坦な緑色でなく、黄が濃いところ、青が濃いところができるので、色面に表情が出るのだ。実際の絵の具では筆の使い方や、絵の具の濃度によってこのムラをコントロールするのだが、Intuos4の優れた筆圧性能であれば、デジタル上でそれを楽しむことができる。
「Painter Essentials」の魅力
今回は「Intuos4 Special Edition」にバンドルされている、「Painter Essentials」を使って、この「塗り重ね」を試してみよう。PainterEssentialsには様々な画材タッチのブラシが用意されている。「PhotoShop」との大きな違いは、キャンバス上にすでにある色と混ざり合ったり、にじんだりと、実際の絵の具のように動作する点。その動作はブラシによって異なり、例えば「色引き平筆」では、油彩の様にキャンバス上にある色と指定した色が混ざり合う。今回は水彩重ね塗りが楽しめる「幅広水彩」ブラシを使ってみた。実際の水彩技法は失敗時の修正が難しく緊張感のある技法だが、デジタルであれば、手軽にやり直しができる。
まずは下書きを用意する。PainterEssentialsで直接描いてもいいし、スキャンしたものをファイルメニューの「配置」で読み込んでもいい。線画をタブレットで描くときには、ペン先は「フェルト芯」が適度な摩擦があって描きやすい。下絵ができたらその上に着色用のレイヤーを作り、ここに彩色していこう。
薄塗りと乾燥を繰り返して、透明感を出す
水彩→水彩平筆を選び、色をつけてゆく。いきなり濃く(強く)塗るのでなく、うっすらと色が着く程度で様子を見ながら塗っていくようにしよう。このブラシは描く時の筆圧によって、色の濃さと筆の太さが自動的に調節される。同じ色の1回塗りでも図のように濃さがまったく異なってくるのが特徴。なおIntuos4のペン先はストローク芯がお奨め。適度な沈み込みにより、筆圧を指先で感じ取りながら塗ることができる。
塗り方のポイントだが、まず周辺を塗ってから、内側を塗るようにする。このとき、ペンを上げず、連続して描くと塗りムラが抑えられる。大きな塗りムラが気になる場合は、上から同じ色で撫でるようにしてやると馴染んでゆく。筆圧を調整しながら、濃淡をつけていこう。ただし、あとから塗り重ねを行うので、あまり濃くしすぎないように注意する。
1色目がだいたい塗れたら、キャンバスメニューから「水彩レイヤー乾燥」を実行しよう。このコマンドにより、キャンバス上の絵の具が定着し、キャンバス上の色が溶け出さなくなる。この状態で上から重ね塗りをすると、下の色が透けて見え、水彩独特の重ね塗りの風合いが出るのだ。何度かこの作業を繰り返す。「乾燥」は一度行うと、元に戻せない(直後の取り消しは可能)ので、色味で少し冒険をしたい場合などは新しくレイヤーを作るといい。
乾燥と塗り重ねを何度か繰り返し、色に深みを出してゆく。最後に水彩標準丸筆と消しゴムでディテールを整える。実際の水彩の場合は紙の白を残して描く必要があるが、そこはデジタルの強み。消しゴムツールでキレイに絵の具をぬぐい去ることができる。必要なら効果メニューから紙のテクスチャを適用すれば、よりリアルに仕上がる。
今回はPainter Essentialsを使ったが、PhotoShop Elementsでもレイヤーをわけて、半透明で塗り重ねることである程度近い表現が可能。色のムラ、塗り重ねのはみだしはデジタル臭さを消してくれる重要な要素であり、ペンタブレットなしでは不可能なデジタルペイント表現だ。手書きによる丁寧な塗り重ねならではの深い味わいにぜひ挑戦してみてほしい。
llustration:まつむらまきお