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署名、メモ、手紙…パソコンがどれだけ普及しても、私たちは「手書き」から逃れることは困難です。とすれば、誰もが「少しでも字をキレイに書きたい」という思いを隠し持っているのではないでしょうか?
この連載では、ペン字講師の阿久津直記さんに「そもそもキレイな字とは何か?」から、キレイな字を書くために覚えておきたいペン字スキルまでご紹介いただきます。
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さて、文字を書く環境が整い、その目的を立て、準備運動まで整いましたので、ここからは実際に"書く"ステップに進みましょう。
明確にイメージできる図形を、完璧に書く
いま、自分の名前をいきなり練習しようとしたあなた! ちょっと気が早いですね。
国語の中で書写、つまり字を書くことは一番最後。まずは知ることから始まります。字の形を知り、読めるようになり、最後に正しく書く、という3ステップ。漢字を覚えるために何度も同じ漢字を書く、というのは、書写とは違うわけです。
それでは、私たちが最も正確に、誰もがイメージすることのできる図形、正方形・正三角形・円をカンペキに描いてみましょう。
・正方形・正三角形は1辺が2cm、円は直径2cm
・できるだけ太いボールペンで
・線の太さは一定
・筆圧をしっかりと、強めにかける
この条件で描いてみます。
ちょっとでも直角でなければ、60度でなければダメですし、線がゆがむ、線の最後が細くなる、もNG。頂点の一方の辺が突き出すのももちろんダメですね。
なぜこんなことをするのか?
それは、文字を書くときも同じだからです。「この線はここまで伸ばそう」と考え、書きます。そのイメージは、正方形に比べ複雑ですし、そもそも明確な形がイメージしづらい。だから字がキレイに、上手く書けないのです。
それがあなたの、今の『丁寧』
この図形をカンペキに描く体験、私はセミナーや研修で一番最初にやっていただきます。目的は、自分自身の「丁寧」を知っていただくため。よく「丁寧に書きましょう」という先生がいますが、力量、性格、癖などは十人十色。丁寧が共通ではありません。
そこで、誰もがイメージできる図形を描いてみるのです。デッサンのように薄く、筆圧もほぼかけずに書く方もいれば、明らかに長方形になっている方など。慣れてくると、辺が1度傾いただけで違和感を感じるようになります。思い描いている単純図形を正確に描くだけでも、案外難しいものなのです。 実際、あまりにゆっくりで力も入るので、実用的ではない、と感じる方もいらっしゃるでしょう。その通りなのですが、まずはその"今の自分の最高の丁寧"をまずは知ることから始めましょう。
阿久津直記
ペン字講師。Sin書net代表。1982年、東京都生まれ。早稲田大学卒業。6歳から書写をはじめ、15歳から本格的に書道(仮名)を学び、18歳で読売書法展初入選。23歳で書家の道を辞し、会社勤め時代に立ち上げに携わった通信教育で企画・運営を行う。2009年にSni書netを設立。著書は『たった2時間読むだけで字がうまくなる本』(宝島社新書/2013年)、『ボールペン字 おとな文字 練習帳』(監修/高橋書店/2013年)など。ブログ「恥を掻かない字を書こう」