• 摂氏232.778度

筆者は、あまり電子書籍を信用していない。中身の話ではなくサービスとしての話だ。簡単にいうと、運営会社がなくなるとサービスも消滅する。長いことコンピュータに関わっていると、さまざまな会社が生まれて消えていくのを見た。人が必ず死ぬのと同じく、会社やサービスにも必ず「最後」がある。多くの電子書籍フォーマットは、サービスとして管理されているため、サービスが終了すると、入手した電子書籍がどうなるかわからない。 しかし、仕事となると、入手の容易さなどから電子書籍に頼らざるを得ないことがある。ただ、最近では、PDFやEPUBといった標準的なフォーマットでの書籍の販売も行われており、できるだけ、サービス依存しない電子書籍を入手するようにしている。

なのに、よく考えずに電子書籍を買ってしまったことがある。2017年のことだが、Windowsの技術解説書として有名な“Windows Internals 7th Editon Part 1”が出てすぐamazonのkindle版を購入してしまった。同書のPart2が出たので調べて見ると、版元からPDFやEpubで入手が可能だった。これなら、Webブラウザで表示させ、ブラウザの拡張機能を使って機械翻訳が可能だ。とはいえ、円安が続くこの時期に、ドル払いで同じ本をまた買うのもシャクである。しかも、2017年にKindle本として購入したときの価格は3,000円に満たず現在よりもかなり安い。

そういうわけで、筆者はWindows Internalsでの調べ事に関して、いまのところKindleを使わざるを得ない状況にある。Kindleの電子書籍はWindows版Kindleアプリで読むことができるが、Windows版には翻訳機能がない。辞書は利用できるが、すらすらと英文を理解できるほど筆者の英語力は高くなく、機械翻訳に頼りっぱなしである。

Webブラウザで動くCloud Readerは、ページが画像として送られてくるため、ブラウザの翻訳機能が使えない。これは、ブラウザの開発者ツールで簡単に調べることができる。ChromeやEdgeならF12キーでブラウザの開発者ツールが有効になる。

原理的には、アプリでもブラウザでもウィンドウを文字認識させれば、テキストデータを得られ、そこから機械翻訳を行わせることはできる。たとえば、MicrosoftのPowerToysには、文字認識機能である「Text Extractor」がある。画面上で範囲を指定するとクリップボードにテキストが入るので、これを適当な翻訳アプリやサービスに入れればよい。しかし、ブラウザ拡張機能の機械翻訳機能に比べるとちょっと手間がかかる。

最近になって、Windows Subsystem for Androidを使って、翻訳機能のあるアンドロイド版のKindleを動かせばいいと気がついた。アンドロイド版Kindleは、タブレット対応なので、ウィンドウサイズを変えても表示が追従して、スマホの画面サイズに固定されない。

右クリックしたあと選択範囲を広げなければならず、翻訳範囲の選択が少し面倒だが、いまのところ最も簡単にWindowsでKindle本の翻訳ができる(写真01)。Chromebookもアンドロイド版Kindleアプリを動かすことができるが、さすがに原稿執筆をChromebookで行うのはかなりしんどい。

  • 写真01: Windows上で動作するアンドロイド版Kindleアプリ。同版には選択範囲を翻訳する機能がある

Windows Subsytem for Androidは、Windows 11上でアンドロイドアプリケーションを動かすための仕組みである。仮想マシンを使いAndroidオペレーティングシステムを動作させている。技術的には見るべきものがあるが、リソースの消費も小さくない。

Amazonアプリストアは、ゲームアプリが多く、アンドロイドアプリの開発以外では、WSAには、ほとんど使い道がないと筆者は思っていた。しかし、アンドロイド版Kindleアプリのように、Windows版アプリにない機能が利用できるのであればインストールする価値を見いだすこともできるだろう。ただ、残念なことに、筆者は、いまのところ、同じように価値のある他のアンドロイドアプリを見つけることができていない。

今回のタイトルネタは、レイ・ブラッドベリの「華氏451度」(原題Fahrenheit 451)である。本の所持や読書が禁止され焚書が行われる未来の話でディストピア小説として十指に入る。タイトルは紙の発火温度(実際には紙質により発火温度は異なる)とされる華氏温度であり、摂氏232.778℃のこと。摂氏と華氏の変換は、割り算が入るので循環小数になることがあり、華氏451度も摂氏に変換すると小数点以下7が連続する。“Kindle”には、「感情など引き出す」という意味もあるが「火を付ける」という意味があり、どうしてもこの本を思い出してしまう。