• 図書館とファイル

ファイルという言葉は、コンピュータが登場する以前からある「書類を集めて整理したもの」であり、コンピュータでは、外部記憶装置や、パンチカードの束、ひとまとまりの情報などを、その類推からファイルと呼んだ。ファイルの語源は、書類を綴じる紐から来ている。紙に記録を行うようになってから、人類は、その扱いに困り「ファイル」や「フォルダー」、「バインダー」を発明した。

フォルダーは、そもそも「File Folder」を意味し、ファイルを作るために厚紙を折って作られたもの。コンピュータでは、ファイルの「入れ物」であると解説されることが多い。

Windowsのフォルダーは仮想フォルダー(Virtual folder)と、ファイルシステム・フォルダー(File system folder)の総称である。Windows 95で仮想フォルダーが導入されてから、ディレクトリと仮想フォルダを合わせて「フォルダー」と呼ぶようになった。MS-DOS 2.xからWindows 3.xまでは、Unix式にディレクトリと呼んでいた。このディレクトリに相当するのが“File system folder”である。“File system folder”は、その名のとおり、ファイルシステム上に実体を持つ。

これに対してVirtual folderは、コントロールパネルやデスクトップなど、ファイルシステム上に実態を持たないものを指す。Virtual folderは、Windowsのシェルであるエクスプローラーがフォルダやファイルのように見せているもので、ファイルシステムのみを扱うコマンドラインシェル(cmd.exeやPowerShell.exe)などからは、直接見ることができない。

Virtual folderに対応する情報はレジストリにある。たとえば、コントロールパネルに表示されるプロパティアイコンは、"HKLM:\SOFTWARE\Microsoft\Windows\CurrentVersion\Explorer\ControlPanel\NameSpace"のGUIDキーが対応する。これを使うとデスクトップにコントロールパネル・アイコンを配置できる(写真01)。

  • 写真01: 写真上は、デスクトップ上のアイコン。右側の3つは、筆者が作成した「仮想フォルダ」で、クリックするとコントロールパネル内の対応するプロパティウィンドウが開く。下のエクスプローラーは、ユーザーフォルダ下にあるデスクトップフォルダを表示しているが、ここにはゴミ箱に相当するものがない。一番下のコマンドライン(PowerShell)では、同じフォルダをカレントディレクトリとしているが、単なるフォルダとリンクファイルしか見えず、フォルダの中には何もない

モバイル系のプラットフォームでは、GUIからスタートしているためか、ファイルシステムをありのままに表示するユーザーインターフェースを避けている。初期に作られたWindows CEやPalmOSなどでは、アプリケーションが必要な情報(ファイル)表示することが推奨され、内部的に使われていたファイル名やパスなどをあからさまに使うことは推奨されていなかった。当時のハードウェアは、現在に比べるとCPUも非力で、メモリも少なく、画像ファイルや多数のファイルなど大量の情報を扱うことは難しかった。

Androidもこの「血筋」を引いていて、画像やビデオ、サウンド、文書ファイルなどを個別のアプリケーションで扱うようになっていたが、いつのまにかファイルシステムブラウザである「Files by Google」が入るようになった。このアプリでもファイルシステムをそのまま見せない努力がうかがえるがフォルダ、ファイルという表現が残る。

Chromebookは、Google Driveを主要なファイルシステムとしているため、ファイル、フォルダがほぼそのまま見える。ただし、フルパス表現などは極力、見せないような努力が感じられる。主要なアプリケーションがAndroidアプリであり、Androidの実行環境とはなじまない部分があるからだろう。

Androidのようなファイルシステムをそのまま見せないような試みは、かつてはMicrosoftも構想したが、パフォーマンスの問題などで搭載を断念した。いまでは画像やビデオ、文書などは、サムネイルなどでプレビュー再生表示することは簡単にできる。しかし、複雑で多様な情報を扱うようになった現在、視聴覚的な表現には限界が見える。

図書館で大量の本から必要なものを探せるのは、分類法により棚が分けられ背表紙にタイトルが書いてあるからだ。ファイルやフォルダ/ディレクトリの名前など言語的な表現にもう少し頼ってもいいような気がするのだが。

今回のタイトルネタは、スタン・リーの「ライブラリ・ファイル」(創元社)である。原題は“Dunn's Conundrum”(ダンの難問)で雰囲気がずいぶん違う。邦題は登場する架空の諜報組織の名前にちなむ。レイ・デントンの「イプクレス・ファイル」、フレデリック・フォーサイスの「オデッサ・ファイル」などもあり、「なんとかファイル」には、諜報小説的なイメージがある。ちなみに作者は、米国マーベルコミックの原作者スタン・リーと同姓同名だが別人(本名Stanley R. Lee。コピーライターとして著名)である。作者名をいいかげんに名寄せしている書籍サイトでは両者を混同しているところも。いやしくも書籍を扱うのであれば著者を尊重してほしいものである。