• The 原稿 Protocol

「原稿用紙」というと学校の作文や感想文を思い出す人は多いだろう。原稿用紙は印刷物を作るためのものである。IT風に言えば、原稿用紙とは印刷工程の初期段階の共通データ形式であり原稿を書いて印刷物を作るときのプロトコルの一部である。一般に印刷物は、執筆、編集、版組、印刷、製本という工程をたどる(他の分け方もありえる)。この中で、執筆から版組までの工程で原稿用紙が使われる。もっとも、出版で使う原稿用紙は、学校で使う原稿用紙を半分にした200字詰めの俗に「ペラ」と呼ばれる原稿用紙である。この方が判型が小さく扱いがラクだ。

原稿用紙がスカスカなのは、あとから、さまざまな訂正や組版の指示(書体や大きさ)などを追記可能にしているからだ。こうした指示は、原稿本文と間違わないように赤字で行なうのが普通で、これを「赤入れ」などという。いわゆる「帯域外(Out-of-Band)通信」である。

執筆者は、見出しと本文、段落などの「意図」をマスや行を空けることで表現する。段落の前では改行し最初は1マス空ける、というのは、このためのルールである。著者は、これで、ここから段落が始まることを編集者に伝えるわけである。

同時に、これは、組版のルールでもある。多くの書籍では、段落の最初を1文字下げる。ただし、それは、レイアウト(版下)の上であり、原稿用紙とは字詰め(行の長さ)が違う。しかし、版組の担当者が原稿用紙を見たとき、段落の最初が確実にわかるようになっている。

いわゆる「禁則処理」も意味を間違えて伝えないためのものだ。これも執筆者から編集者、版組担当者に向けたものだ。句読点や閉じ括弧類は、行頭に置くことはできず、開き括弧類は、行末に置くことができない。これは、意味を間違えないためだ。たとえば、句点が次の行にいってしまうと、文がそこで終わっていることが見逃される可能性がある。開き括弧が行末にきてしまうと、括弧の中にあることが意識されない可能性がある。そんなことあるのか? と思われるかもしれないが、原稿用紙に鉛筆などで手書きという点を考慮してほしい。

書籍では、拗音や促音を表わす小書き文字(捨て仮名)や音引きを行頭に置くことを許し「禁則処理」はしない。しかし、ワープロ、エディタでは、これをデフォルトで禁則処理対象としているものがある。もちろん、小書き文字を禁則処理しないデフォルト値を持つアプリケーションもある。筆者の手元にあるものでは、Word(Microsoft 365版バージョン 2305 ビルド 16.0.16501.20002)のデフォルト値には、小書き文字が含まれていたが、一太郎2020(バージョン30.0.3)には含まれていなかった。

段落の先頭に全角スペースを置いた場合、改行に続く1文字だけの全角スペースを探すことで、段落の始まりを探すことができる。簡易には、否定先読みを使って“\n  (?! )”という正規表現で段落の先頭にマッチさせることができる(空白部分は全角スペース)。“(?!<パターン>)”が「否定先読み」で、<パターン>の部分がマッチしなければ、その前の部分が一致する。これは、「全角スペースが後続しない」という意味だ。このような場合には、改行記号で行を区切らない「シングルラインモード」で正規表現を動作させる。

人は、段落を斜め読みしてしまう。このため、誤字などに気がつきにくい。段落を文にわけて読むと、間違いが見つけやすくなる。段落を分離したあと、句点を使って、文を切り出すことができる。Windows PowerShellでは、


((Get-Content -Raw <ファイルパス> -Encoding UTF8 ) -split "\n (?! )") -replace '。(?=.)',"。`n`n" | %{ write-host "${_}`n----------" }

とする。後半のreplace演算子では、 '。(?=.)'の部分で、肯定先読みを使って「何かが後ろに続く句点」(段落の最後にない句点)を探し、そこに改行文字(`n。ダブルクオート中でないと意味を持たない)を2つ挿入している。ただし、このコマンドでは、校正用に文章をバラすものなので、この記事のように文中にダブルクオートで囲まれた句点があっても処理してしまう点には注意されたい。テキストファイルだとプログラムと異なり、ダブルクオートやシングルクオートは対になるとは限らない。たとえば『「"」はダブルクオートと呼ぶ』といった文である。このため、ダブルクオートの中の句点も処理対象のままにしている。

今回のタイトルネタは、Xboxのゲーム「Halo」のノベライズ版タイトルの1つ「Halo:The Cole Protocol」である。Xboxが日本で流行らなかったので、Haloの人気も日本ではいま1つだが、米国ではXboxのシェアも結構あり、Haloシリーズの人気も高い。米国では、30冊以上もノベライズ版が出版されたが、日本では6冊が翻訳されただけだ。このCole Protocolは、邦訳の6冊目のタイトルで、宇宙人に地球の位置を知られないために、宇宙艦隊に課せられたルール(Protocol)を指す。そもそも、ゲームのHalo第一作で、主人公が艦載AIであるコルタナと脱出するのは、このCole Protocolのためだ。Windows 10が専用ハイパーバイザーの下で動いてUWPアプリが利用できるということもあって第3世代のXbox Oneまでは持っていたのだが、プレイしたゲームはHaloシリーズのみである。