• 863の謎

米国では、日本と異なるヤード・ポンド法を単位としているため、ときどき、インチやポンドといった単位を相手にしなければ、ならないことがある。また、旅行などで米国に行くと、イヤでも、ヤード・ポンド法の単位を耳にする。メートル法になじんだ日本人にとって、ヤード・ポンド法の単位ではおおまかな量さえわからない。それは、米国人も同じで、かつて空港で荷物が重すぎるので減らせとポンドで言われたとき、1ポンドは何キログラムなのかを聞いたら、もう行っていいと言われたことがある。ちなみに1ポンドは0.453 592 37 キログラムなので、だいたい450グラムである。米国のPCカタログでラップトップの重量が2ポンド(2 lb)を切っていたら超軽量である(見たことはないが)。コンピュータやエレクトロニクス関連では、米国が先進国なので磁気や光学メディア、ネジのサイズなどヤード・ポンド法の単位が比較的よく使われる。ヤード・ポンド法は米国と英国では異なるが、基本的には米国の単位のみで十分である。

最近の電卓アプリには単位の換算機能がついていることが多い。Windowsの電卓アプリ(Windows Calculator)にも単位換算機能がある。電卓アプリはAndroid/Chromebookにもあるが単位換算機能はない。Android/Chromebook標準の電卓アプリでは力不足なので、筆者はHP電卓のエミュレーターであるEmu48を使っている。この電卓については、過去記事(窓辺の小石(50) 私たちのアポロ計画)を参照していただきたい。

HP電卓には単位変換の機能があるが、実機を使ったことがある人にしかわからないだろう。「UNITS」でメニューを「単位カタログ」にして単位を選ぶと入力数値に単位が付く(写真01)。単位をつけたまま計算もできる。単位が1つなら、左シフトキーを押して変換先単位をメニューから選ぶと変換できる。複数の単位が含まれる(たとえばmi/galなど)場合には、左シフトキーを押して「UNITS」を押し、「単位コマンド」メニューから「CONV」を使う。複雑な単位でも次元が合っていれば計算可能だ。また、自分で単位や変換を定義することもできる。

  • 写真01: HP-48GXのエミュレーターEmu48で単位を換算しているところ。1ガロンあたり35.5マイル(写真中は35.5_mi/gal)を、1リットルあたりのキロメートル(同km/l)に換算したのが下の数値

単位換算のアプリなどが使えればいいが、実生活の中では、スマホを使うのも難しいことがある。アメリカのガソリンスタンドは、セルフサービスのとき窓口で必要な量を口頭で言わねばならないことがある。もちろん単位はヤードポンド法でガロンである。あるいは、インチ表記のネジなどを使うこともあるだろう。メートル法なら「サイズ感」があるので、適当な大きさを思い浮かべることができるが、慣れない単位だとそうもいかない。日常的に使うのは、「長さ」、「重さ」、「容積」、「温度」の4つぐらい。基本的な知識があると、とっさのときに困らないし、暗算や単位換算機能のない電卓でも計算ができる。

長さ1フィートは、12インチ、約30センチなので「1-2-3」と覚える(表01)。12とは半端だが、12は、2、3、4、6が約数になり10よりも割り算、あるいは分数計算が行いやすい。1マイルは約1.6キロメートルと覚える。数字を1.6倍すれば、キロメートルに換算できる。

  • ■表01

Linuxにはコマンドラインで使える単位変換プログラムに適当なものがなく、bcなどの電卓プログラムで計算してnumfmtなどの接頭辞変換プログラムを使う。以下は、1万フィートをキロメールに変換する計算である。1インチを表わす“2.54”はセンチメートルなので、メートルに直すため“--to-unit 100”として結果を1/100にしている。単位関係が分かっているなら2つ目のパイプ記号以下は省略してもかまわない。


echo 10000*12*2.54|bc|numfmt --to si --suffix=m --format '%.3f' --to-unit=100

重さのポンドは、2ポンドが900グラム。1ポンドは16オンスである。容量の1クオートは、0.95リットルなので、ほぼ1リットルと同じ。1ガロンは4クオートなので4リットル弱である。たいたい牛乳のパックが単位と考えるといい。

温度の華氏は32を引いて5/9をかけたものが摂氏と換算式が複雑なので、摂氏20度は華氏68度、あるいは摂氏30度が華氏86度と覚えておくと把握しやすい。前者は、モトローラのマイクロプロセッサ「MC68020」を思い出せばよく、後者は、インテルのCPU「i386」を思い出すとよい。

今回のタイトルネタは、ルブラン(Maurice Marie Émile Leblanc)のアルセーヌ・ルパン(Arsène Lupin)シリーズの1つ「813の謎」(原題813)。本文にある摂氏と華氏の換算に使った“386”をひっくり返したのがこのタイトルの数字である。

筆者が小学生の頃、学校の図書館にはルパンやホームズの子供向け翻訳、あるいは江戸川乱歩の少年探偵シリーズなどがあり、本を読む小学生の大半はルパンやホームズあるいは明智小五郎を知っていた。しかしホームズの翻訳や江戸川乱歩の作品は子供向けではない原作が簡単に読めるのに対して、ルパンシリーズの原作の忠実な「大人向け」翻訳は一部のみ、いまでは古書でしか入手できないものも多い。そういうわけで、いまでは派生作品の方が有名で、忘れられた作品なのかもしれない。