■あなたはVISAを持っていますか?
初めて外国へ行った時の事を思い出してほしい。誰しも、大なり小なり、いろんな失敗を繰り返していると思う。最近では、ネットでいろんな情報が瞬時に調べられるのでそれほどトラブルも昔よりは多くはないが、それでも笑える話はいくらでもあるだろう。
とにかく、初めての海外旅行…いや、初めての海外への「一人旅」は、テレビ番組の「初めてのお使い」に近いものがあるのではないだろうか?
ボクが初めてアメリカに行った時のことだ。
1984年の事だ。飛行機も生まれて初めてだった…。
機内の中で 「Do you have VISA?」と聞かれて、元気よく「I have VISA.」といって、VISA CARDを提示した記憶がある。きれいなスチュワーデスさん(当時はフライトアテンダントとは呼ばない)に、ニッコリと「No No Visa Card.」と言われた。
完全に笑い話のようだけど、VISAとは査証のことだった。
そして、ボクが出したVisaとはクレジットカードだった。
ジョークのようだけど、飛行機の機内販売でカードを使った直後に、VISAの事を聞かれると普通はクレジットカードの事かと思ってしまう。
■行動を起こしながらの「May I ?」 は最強のゴリ押し表現
また、機内でシートを倒す時には、英語でなんていうんだろう? と思って、「Can I seat down OK?」なのか「If I possible sheet down OK?」なのかと延々と悩んでいたら、前の座席の外国人が、こちらの目を見て、ウインクしながら「May I ?」といいながら同時にシートを倒してきた!
その瞬間、これだ!と気づいた。
英語では、いろいろ考えるよりも、身ぶり手ぶり、顔付き、そしてウインクでなんとかなってしまう事のほうが、衝撃的なシーンであった。
そう、行動を起こしながらの「May I ?」は、ほとんど有無を言わずにこちらのパターンに相手を巻き込める最強のゴリ押し表現なんだ!
それ以降、商品の値段を値切るのも行動を起こしながらの「May I ?」を使う。
商品を手にとり、こちらのプライスを宣言して、カバンに入れようとする行動を起こしながらの「May I ?」は、買う意思を相手に明確に伝えることができる。さらにウインクを併用することも重要だ。
これだけで価格は果てしなく弾力性を持つばかりか、面倒くさい値段交渉も楽しめるようになる。
特に、中東の国などでは、ユダヤ人の市場(スーク)では値段通りで、アラブ人のスークでは値段がない。アラブ人のスークでの購買は、最初から交渉だったりするから、最初から値段交渉を楽しまないとホントに疲れきってしまう。
ボクが、最初にアメリカについた瞬間、タラップの階段を下りながら、空気がバターのにおいがしたことも今でも覚えている。
そして税関を抜けると、レーガン大統領のポスターがニッコリと迎えてくれた。
これはとってもいいサービスだと思った。アメリカに来たことを実感できた20の時だった。
日本でこれをやると、毎年総理大臣が変わるので大変だ(笑)。そういえばアメリカでも大統領のポスターが迎えてくれる空港は少なくなった。これは初めての外国では感激するので、ぜひ空港で続けてもらいたい。
■国際運転免許証は何のためにあるんだ?
さて、いざ海外でクルマを借りるとするといろいろと大変なことに出くわす。
そもそも、日本の免許を持っていて、わざわざ国際運転免許証を1年限りのものを取得するのに、写真1枚(縦5cm×横4cm)と国外運転免許証交付手数料(2,650円)を支払ったにもかかわらず、渡航先の交通ルールなんてガイドブックひとつないのは非常に問題だと思う。これは不親切極まりない。
慣れない右ハンドルということもあるし、標識だってものすごく違うし、文化も違うからだ。
せめて簡単な海外ガイドブックくらい用意してほしい。日本の免許の更新の時の安全協会の本の半分でもいい。 むしろ、日本の免許を西暦にして英語を入れれば済む話でもある。その方が簡単だ。もっというとパスポートにも連動して、自動化ゲート登録もつけてほしいくらいだ。
ボクの失敗談は冗談抜きで命を落としていてもおかしくなかったからだ。
■謎の標識、「CAR POOL」とは?
カリフォルニアのシリコンバレー(そんな地名はないが、サンフランシスコの郊外のハイテクタウンはそう呼ばれる)では、「CAR POOL」 という謎の標識をよく見かける。
右側通行でレンタカーを運転していて、フリーウェイが2車線で左側がガラガラなことが多い。
ある深夜に、サンフランシスコへ向かうルートを走っている時にあまりにも眠いために、「CAR POOL」という標識を、車を寄せるという「モータープール」の意味なんだと思いそこに停車して仮眠を取ることにした……。
しばらくすると、 深夜のフリーウェイで、道はガラガラ空きなのに、わざわざ、後続のクルマが、ボクのクルマの後ろから強烈にパッシングをして、思いっきりクラクションを鳴らし、路線を変更してものすごいスピードで通り抜けていく……。
それが、1台、2台だったら、いいが、10分おきくらいにそんな目に逢った。最初はアメリカ人って、とっても意地悪な国民なんだと思っていたが、翌日、オフィスでその事を話すと、みんなが全員そろって「Oh My God!」の表情だった。OMGだ! 「おう!なってこったい!」というホウレン草のポパイのフレーズそのものだった。
「CAR POOL」というのは、優先道路であり、人を2人以上Pool(貯める)することによって優先して走ることができるフリーウェイだということを初めて説明されて理解した。
だから右車線は混在していて、左車線が空いていたのか……。恐ろしい……日本の追い抜き車線で停車して仮眠していたようなものだ。
ボクは関西出身だ。実は関西では、「駐車場」のことは「モータープール」と呼んでいる。「プール」イコール、クルマを停めるスペースの意味なのである。
それ以降、米国の「CAR POOL」は「モータープール」でない話は、毎度、ボクの米国での失敗談のつかみになっている。
■手錠をかけられ、拳銃で頭をねらわれた日
さらに、文化の違いはホントに怖い目に会ってしまう。
サンフランシスコからサンノゼへの帰り道、ボクは眠たさを我慢しながら、101号線のフリーウェイを60マイルの制限速度ピッタリで走っていた。
しばらくすると、ずっと後ろで、パトロールカーがサインを点灯させながら、追尾してくるのがわかった。ボクは、スピードを出しているわけでもない、そして酔っぱらい運転でもない。慎重に運転していたはずだ。こちらには、何も悪いところはない。
しかし、後ろのパトカーは、さらにボクのクルマとの間を詰めてくる…。イヤな予感だ…。
何なんだ?と思いながら、スピルバーグ監督の「続・激突カージャック」のような不気味さを覚えながら、ややスピードを落としてみた。
すると後ろのパトカーもスピードを落とす…。今度は、スピードを60マイルにあげてみた……すると、同じようにパトカーもスピードを上げる。まるで映画のワンシーンだ。
ウインカーを出して車線変更すると、パトカーも車線変更。
「何なんだ?」と思い、車線を元にもどした途端、けたたましいサイレンと共にパトカーはボクを追い抜き、停車するようにと窓を開けて手をふっている。
眠いのを我慢して安全運転しているのに……ちょっとムッとして停車した。すると、警官が2人おりてきて、懐中電灯で照らしながら、ボクのクルマに近寄る。窓ガラスを叩くので、窓を開けて、運転免許証を見せようとした瞬間。
■大きな声での「Please!」
大きな声で警官は、「Please!」と叫んだ!
びっくりしたボクは、そんなデカイ声を出さなくてもと思いながら、急いで免許証を探す……と、今度はまたさらに大きな声で「Please!」と叫んだ。
さすがにボクもビビリながらゆっくりと警官を見たら、なんと拳銃をこちらに後ろの警官が構えているではないか~!
なんだか、この瞬間、自分の人生が走馬灯のように回りはじめたことを今でも覚えている。
そこからは悪夢が始まった……。
あとでわかったのだが、それは「Please!」ではなく、「freeze!」 だった……。「フリーズ=冷凍」の意味で、強い意味での「動くな!」だったのだ。
クルマから引っ張り出され、目をつぶって、片足をあげろとか、屈伸をしろとか、ネイティブな英語で、いろんなワザをリクエストされるが、ヒアリングと同時にいろんな行動をしているのでどれもうまくいかない。
すると、「パトカーに両手をつけろ」と言われ、言われるがままにした。今度は、「右手後ろ、左手後ろ」となんだか、赤上げて白さげない的なプレイになったかと思うと、手首に右からずっしりとした、冷たい感触のものが鈍い音を立てて、左手首へと移った。
それは「手錠」だった。
頭の中で「手錠」は英語でなんと言うんだ?という余裕があっただけが救いだった。ちなみに手錠は、「handcuffs」だが、ボクの脳裏にその単語はまったくインプットされていなかった。
もう、頭の中はパニック映画だ。いやアクション映画に近い……。今まで、拳銃で頭を狙われたこともないし、手錠をはめられるなんて。一人の警官はボクのクルマに、もう一人の運転するパトカーでボクは、サンブルーノあたりの警察署へと連行された……。
■今日からギャングの仲間入りなのか……
慣れない外国の地で、投獄されるハメになるのかと思いながら、手錠をかけられたまま、待合所に行く。なんだか、殺風景な場所だ。「ターミネイター1」が乗り込んできそうな雰囲気の警察署だ。
そこの待合所には先客がいた……。
ギャングのような黒人たちがボクと同様に手錠をかけられていた。4人いた彼らのヨコに座わらされると、彼らは「Yo!」 というあいさつをして白い歯を見せた。彼らに仲間扱いにされるのはイヤだったが、怖かったので「Yo!」と答えた。ボクもギャングの一員になった気がした。今日からギャングの仲間入りなのかと思うと人生はどこでどうなるのかと不安に思えた。
それから、ネイティブスピードでの説明を受ける。こちらが英語を喋れようが、喋れなかろうが、関係ない。この環境こそが英語学習のキモである。こちらは必死で聞き取らないとここから出られないかもしれないからだ。ようやく、意味している言葉が尿検査だとわかった。「urine analysis」という。
そんな言葉は聞いたことがなかった。
尿検査でようやく手錠を外してもらえた。
そして、30分もすると、尿検査の結果がでた。なんと麻薬の反応を調べていたという。
アメリカだなぁ……と思った。
それからは、すべての謎が氷のように溶け始めてきた…。
なぜ、こんなことになったかというと、 理由は…
【1】深夜に制限速度60マイルピッタリで走る人は誰もいない。しかも、ノロノロ運転だった。
【2】パトカーのライトが点灯したら、停車しなければならない。
それなのに、スピードを落としたり上げたり、車線変更する = 薬物中毒の人が運転している可能性が高い。
【3】「freeze」 と言っても行動を止めないので、拳銃を抜いた。
との事。
笑い話を通りこして、命を落としていてもおかしくない状況だ。
外国に行くと、英語ができませんでは、まったく理由にならない。
特に警察は遠慮なくネイティブスピードのまま、こちらがスキルアップするしかないと思った。
見事、釈放となった時には、空がdawnになろうとしていた。
少なくとも、この【2】と【3】は、国際運転免許証を取得する時には教えておいてほしいものだ。
ぜひ、皆さんも国際運転免許証はあっさりととれてしまうのですが、渡航先の交通ルールは、知っておいて損することはありません。
ということで、では、また来週!
文/Paul toshiaki kanda 神田敏晶
神田敏晶
KandaNewsNettwork,Inc. 代表取締役
ビデオジャーナリスト / ソーシャルメディアコンサルタント
神戸市生まれ。ワインの企画・調査・販売などのマーケティング業を経て、コンピューター雑誌の編集とDTP普及に携わる。その後、 マルチメディアコンテンツの企画制作・販売を経て、1995年よりビデオストリーミングによる個人放送局「KandaNewsNetwork」を運営開始。ビデオカメラ一台で、世界のIT企業や展示会取材に東奔西走中。
1999年に米国シリコンバレーに進出、SNSをテーマにしたBAR YouTubeをテーマにした飲食事業を手がけ、2007年参議院議員選挙東京選挙区無所属で出馬を経験。早稲田大学大学院、関西大学総合情報学部で非常勤講師を兼任後、ソーシャルメディア全般の事業計画立案、コンサルティング、教育、講演、執筆、政治、ライブストリーム、活動などをおこなう。