若い世代のビジネスマンにとって、社内外でのコミュニケーションが悩みの種である人は多い。そんな人にもってこいなのが『お笑い』のスキルである。

  • 会話を面白くする方法

    元芸人でベンチャー企業の代表を務める、中北朋宏氏

ここでは、芸人として6年活動するもトリオを解散。その後、新たな人生のスタートとして企業コンサルや人事業務の経験を積み、芸人向けの人材サービスやお笑いを取り入れた企業コンサルを行う「芸人ネクスト」の代表取締役社長・中北朋宏氏に『スベらない仕事術』を聞いてみた。第2回のテーマは「会話を面白くする方法」。

なぜ、スベってしまうのか

そもそも、なぜ面白くない会話が生まれてしまうのか。誰もが自ら進んで面白くない話をしたいわけではないはず。中北氏は、スベってしまうパターンを例にあげて語る。

「例えば、スピーチをしている人が『今笑うところですよ』と言って強引に笑いを誘っているシーンを見かけることがあります。僕は『笑いのカツアゲ』と呼んでいるのですが、これは『フリとオチ』の構造を理解していないから起きてしまうのです」

つまり聞き手もフリがないので、オチに気づけないのだ。フリとは前提条件のようなもの。前提条件が提示されなければ、結論であるオチに辿り着けないのは道理であろう。

スピーチで読み解く『フリとオチ』

「自虐ネタ」のお笑いテクニックを活用した結婚式スピーチを例に、『フリとオチ』を踏まえた話の流れについてみていきたい。

【スピーチの流れ】
STEP1:「話者自身を自虐ネタで落とす」
STEP2:「新郎を失敗談などでイジる」
STEP3:「新郎を具体的な成果などで上げる」
STEP4:「新郎新婦への期待を伝える」
STEP5:「来場者に拍手を求める」

「新郎の失敗談をイジって笑いをとりたいなら、まず話者である自分を自虐で落としておくのがポイントです。上の立場から人を貶しても笑いは起きません。次に、失敗談などで新郎をイジって落とすと、続けて必ず仕事で活躍した内容・具体的な成果など数字を踏まえて伝えることで上げます。この『落としてから上げる流れ』は、場の雰囲気を掴むうえで大事です。落としてばかりですと人は不快になりますし、上げてばかりでも『サクラ』かな? と思われてしまいます」と中北氏。

また、こう続ける。「もし自分を自虐で落とすときは、落としすぎないように気をつける必要があります」と中北氏は話す。結婚のスピーチで「結婚おめでとうございます。うちの会社が経営的に危ないんですよね」と嘘か本当か分からない大それた自虐をすると、人によっては心配してしまうはず。そのあたりの見極めは大事なのである。

そして、最後は会社として新郎への期待を伝える。ここで、笑いが欲しければ自虐でオチを用意してもいいが、鉄板なのは「二人の門出を祝福する人は拍手してください」と客イジりをすることだという。内容がどうあれ、ラストが盛大な拍手に包まれれば、いい感じに終われる(見える)というわけだ。

補足として「飲み会の挨拶をするときは、声のトーンも大事です」と中北氏は言う。冒頭の挨拶のときは6割ぐらいの声の大きさで元気に、中盤に労いを話すときは控えめな声にして語りかけるように、最後はそこから5割ぐらいの声に戻して会社の将来を元気に伝えてから、「他のお客さんもいるんで、静かにいきましょう」と静かな声でフリをしてから、バカでかい声で「乾杯!!」と叫んでオチをつける。そこから「盛り上げていきましょう! 拍手!」でシメに拍手をもってくれば、やはりいい感じに終われる(見える)。

面白い話の構造を理解する

面白い話をしたいなら「トーク番組で活躍するお笑い芸人さんのスキルを分析してみるといいと思います」と、中北氏は語る。具体例を見ていきたい。

「枕詞」とは話題のタイトル、「ディテール」は登場人物の解説であり、聞き手にイメージを共有する『フリ』の部分、「オチ」は登場人物のイメージとは正反対のことを話す。

【具体例】
枕詞:体重160kgの先輩の話なんですが、

ディテール(フリ):本当に大きいので駅で階段を上っているだけで、

オチ:ヨボヨボのおばあちゃんに「上手にのぼれたね」と褒められるんです。

また、一流の芸人は1度目のオチで起こる笑いがイマイチだった場合のため、「2度目のオチ」を用意し、そもそもスベることがないように準備しているのだという。

【具体例(オチの2段構え)】
枕詞:体重160kgの先輩の話なんですが、

ディテール(フリ):ちょうど電車の座席2席分の体格なんです。本当に大きいので駅で階段を上っているだけで、

オチ:ヨボヨボのおばあちゃんに「上手に上れたね」と褒められるんです。

2度目のオチ:満員電車に乗っているだけで周囲がざわつくので、念のため切符を2枚買って印籠みたいに見せるんです。

このように分析すると、話の流れ、フリとオチの構造が理解しやすい。ビジネスシーンで話す際にも、これらを意識してみるといいだろう。

日々の積み重ねで『笑い』は光る

「笑いにもPDCAがあります。笑いの道筋を作って、人に聞かせて、より面白くなるように尖らせること。これを芸人の世界で『コスる』と言います」

面白い話のストックを用意すること、そして、それを人に話してより多くの笑いが取れるように最適化することで、面白い会話のコツは身についていくのだ。

中北氏は、面白い話の仕組みはシンプルだと語る。「自分が笑いをとることができた『トーク』や『ワード』などウケた体験は蓄積されていきます。そして、笑いがとれたフレーズを何度も転用し、自分の中の鉄板ワードへとブラッシュアップしていきます。あとはタイミングを見計らって、その引き出しを開けるだけです」

これを筋トレのごとく繰り返すことで誰でも面白くなれるのだという。ただ、『どのタイミングで』『どの引き出しから取り出せばいいのか』が掴めるようになるまでには時間を要する。面白い話のトークスキルを身につけるためには、トライアンドエラーを繰り返すことが大切なのである。