中学のころ、女子生徒の着替えを新人の担任教師が覗いていると言って、クラスの女子生徒が大騒ぎしたことがある。「大問題」にならず「大騒ぎ」であるから、まあ濡れ衣に間違いない。また高校のとき、「赤毛に悩んでいる女子を傷つけた」とか言って、クラスの女子全員で体育の教師に直談判しに行ったことがある。確か教師は「その髪は染めてるのか」とか聞いただけだったが、聞かれた女子が泣いたために女たちが激昂したのだ。

若い女というのは、自意識過剰で自分の尊厳を守ることには敏感で、まあ一口に言えば、めんどくせえ生き物である。しかしそんなめんどくせえ生き物が、日本では大人気で、私の母校は女子校であったが、そこの男性教師の妻は全員卒業生という世界の狭いことになっていた。

この場合、先生が生徒に色目を使ってるかと思うと気持ちが悪いけれど、生徒が身近にいる「指導者」「保護者」を慕う気持ちはわからなくもない。そんな現実をカタチにしたのが、先生と生徒の恋物語『I LOVE HER』だ。読みながらどうにも、くらもちふさこの『海の天辺』が浮かぶなあと思っていたら、やはりそれにインスパイアされて作ったのだそうだ。なーるほど。

主人公は、高校1年生の花。両親の離婚で引っ越した先のアパートで、高校教師の新ちゃんと隣人になる。少女漫画では、作中知り合った男女は大抵くっつく(なにしろ基本テーマが恋愛だから)ため、まあこの二人の恋愛模様がメインのお話である。

と言いつつ、今回は花と、その母親についてちょっと触れてみよう。花の母親は、非常に頭が悪そうな感じなのである。この手のキャラは、集英社系の漫画に特に多い気がするんだけど(『ママレードボーイ』とか『ホット・ロード』とか)、なんか家族関係に深い悩みを持った編集者でもいるんだろうか。しかし一般的に、中学や高校に上がるころの人間は、自分の親が完璧なスーパーマンではないことに気づき、また自分への不理解に苦しむものだ。客観的視点なんてまだないお年頃だから、物事を考えていて、悩んでいるのは自分だけ、という自己陶酔状態である。まあ、そんな若者に同調した作品なのである。

「能ある鷹は爪を隠す」と言うけれど、本当にデキる人間というのは、無駄に威張ったりテリトリーを主張したりせず、控えめで、バカなフリができるものである。花の母親がそうかどうかは知らないけど、ひどく脳天気に描かれているのは、親に対する失望、それから人をカタチだけでしか捉えられない高校生の不遜な視線の表れなのである。こういうのを読むと「食わせてもらってるのになあ」なんて思っちゃうんだけど。女手ひとつで子どもを養うのって、大変だと思うぞ。

絵が似てるせいか、読みながら『ホット・ロード』を思い出したが、この話も主人公の母親が離婚していた。子どもがぐれるかぐれないかの違いで、どちらの作品も親の恋愛に悩むシーンがある。片親になってしまったことは仕方がないとしても、子どもは親にとって唯一愛されるべき存在でありたいと思う。まして、自分の親が色恋をするなんて、汚らわしいと。

大体、自分たちがセックスのたまものであるということを知って、「なにそれウゲー」と思う、感受性の強い時期なのだ。自分の親が赤の他人と恋愛関係にあるなんて、想像もしたくないに違いない。だけど親も人間だから、恋愛くらいはしたいよなあ、なんて思うと親子の関係って大変だ。

自分の親が、自分を一番理解してくれる存在ではないことを知ると、人はそれを外に求めるようになる。自分の理解者として、恋人を求めるようになるのだ。なんやかんや悩みの多い主人公・花は、こうしてお隣に住む、ちょっと頼れそうな、ダメそうな新ちゃんに惹かれていくのであった。
<つづく>