あんまり威張れた話じゃないけど、私は、過去付き合ってた男に対して、「楽しい時間をどうもありがとう♪」なんて思ったことがない。それどころかむしろ、時間と金と誠意の無駄だったと思っている……とか言うと、大抵怒られちゃうんだけど。

しかし先日、こんなことを言われて、「はぅっ」となった。「別れるまでに、きちんと自分の気持ちを伝えた? どんなことに我慢をしていて、何がイヤだったか、相手に伝えたの?
」。やってません、ちっとも。だから相手は、私が無条件で相手を好きだと思いこみ、なんだか上目線な態度をとり出し、私はたいそう不愉快な目に遭うのか。確かに、たまっていた不満をきちんと吐き出していたら、楽しかったころの思い出も、今のようにどこかへ行ってしまってはいないのかもしれないな。

だからかどうか知らないけど、復讐劇が好きだ。『ゆりかごを揺らす手』なんか、もう悪役のほうに感情移入しちゃって、全然楽しめなかった(このタイトル、「ゆりかごを揺らして」の東北なまり"揺らスて"かと思ったという人の話をどこかで読んだなあ)。ひどい目に遭わされた相手に、思う存分イヤがらせできたら、さぞかし気分がいいのではないかと思う。

『青い鳥症候群』は、復讐ではなく、贖罪の物語だ。主人公の杏奈は、都内の有名大学に通う女子大生。彼女は、慎吾くんという、心臓も頭も弱くなっちゃった幼なじみの面倒を見ている。彼の両親は、杏奈の父親に騙され、心中してしまったのだ。ひとり助かった慎吾は、子どものころに記憶が戻り、お子ちゃまになって入院している。その生活費すべてを、杏奈ひとりでまかなっているのだ。

そしてここが、この物語の萌えなところであるが、杏奈は、慎吾の巨額の入院費を支払うため、詐欺を行っている。杏奈曰く「なんの取り柄もない女子高生(慎吾の両親が心中したのは高校生のころだ)が、大金を稼ぐには皮肉なことに、父親譲りのこの才能に頼るしかなかった」とか。杏奈はたぐいまれな美女のようなので、どうせ裏の顔を持つなら、ほかにも仕事はありそうな感じだが、「他人は傷つけても、それは愛する慎吾くんのため」という言い訳が、なんとも自己犠牲っぽくて良いのである。しかも貞節はしっかり守っているようなので、この辺からも、なんとなく杏奈が聖女な感じを受ける。

復讐劇にしろ贖罪にしろ、それができる環境にあるというのは、幸せだなと思う。何か事件が起きた後、相手に関わるチャンスというのは、ないことのほうが多い。何か悪いことをしてしまった後に「ごめんなさい」が言えるチャンスがあったら、それだけでだいぶ気持ちが救われるものだ。杏奈も、慎吾が両親の心中で一緒に亡くなってしまっていたら、贖罪をすることすら叶わなかったのだから。実はこれは密かにハッピーなストーリーなのである。

この漫画は、80年代後半に連載されていた。時代からして当然、携帯電話もなければ、個人情報保護法なんかもないし、「ヲタク」という言葉すらなかったころのようである。現在ならこれほど易々と情報を手に入れられなかったり、また情報の行き違いがなかったりするだろうなと思うことはあるが、まあ、その辺のユルさは少女漫画故。重要なのは「心の機微」であるので、よしとしよう。しかし登場人物が、次々と「おたくは」「おたくが」と連呼するのには、読みながら少々まんじりとしてしまう。イケメン2人が、おたく、おたくと叫びながら殴り合いをするシーンがあるのだが、どうにも彼らがアキバ系に見えて仕方がない。復刊するときにはぜひ校正し直していただきたい……。

ちなみにこの漫画、99年に安達祐実主演でテレビドラマ化されているので、ご存じの方も多いかも。次回はもう少し詳細を突きつつ……。
<つづく>