さて、前回に引き続き『エイリアン通り』。

ところで小説にしろ少女漫画にしろ、お話には読者の"共感"が必要です。文章を書くときにも、共感を呼ぶように作れ、と編集者に注意されます。共感というのは、「わあ、私もそうだわ」と思うこと。漫画を読むならそれは、「アタシ、××の生まれ変わりなの!」とか「××ってアタシのこと?」などと何かの登場人物に自分をシンクロさせるということになります。つまり登場人物になりきるわけですな。

カンペキ無敵のシャールくんが主人公の『エイリアン通り』、読者はいったい何に共感するのでしょう?

それはもちろん、シャールくんと同居していて、ついには両思いになる女子、翼。こいつは本当に上手い。憧れのシャールくんと一緒に住んでるというのに、読者に焼き餅を焼かせないのだ。なぜなら、全然女っぽくないから。色気のないショートカット、子供のような体つき。そして自分のことを「ボク」と呼ぶ。「ボクなんてシャールくんとは釣り合わないさ」などと控えめなことを言い、そうか、それならがんばれと漫画少女たちの賛同を得るのだ。

そして、漫画にそれはそれはよく登場する、"疑似家族"状態。赤の他人が、実の家族以上に仲良く楽しく、一緒に生活するというもの。『めぞん一刻』なんかその代表作でしょう。そして『エイリアン通り』もまさに、自分の居場所を見つけられなかった人間たちが、ワラワラと集うおうちの話である。

世の中、一家団欒仲良し家族に育った人間よりも、おそらく家庭に自分の居場所を見つけられなかったり、何かしら不満のある人間のほうが多いんじゃないかな。最近は、現実でもルームシェアが流行っているようだし。そうじゃなくても、人は自分の居場所を探しているもの。それを叶えてくれる"疑似家族漫画"は、読者にメチャクチャ夢を与えてくれるわけだ。

しかもそこには、翼(読者にとっては自分)を大切に守ってくれる超イケメン王子様が。あーもう、天国ですわ。しかもですよ、このシャールくん、マジで日本にゃー絶対いない気の利く16歳。翼が一人で買い物をしていれば通りがかって荷物を持ってくれ、翼が友人の家に遊びに行けば、勝手に駅まで迎えに来てくれる。イケメン王子だからこそ許されるちょっぴりやりすぎガードだけど、こんな風に大事にされてみたいものですわ。

しかしここで気をつけたいのは、少女漫画に出てくる男は、確かに女の理想。だけど真似したからといって成功する訳じゃあないということ。例えば電車で帰るって言ってるのに「車で送ってあげるよ~」とか、ちったあ空気を読め! と言いたくなることがよくありますな。

女性への気遣いは、さりげなくやってこそ意味のあることで、
「ムフンムフン、ポイントアップしたいなあ」
「助手席に座らせてニオイ嗅ぎたいなあ」
というような下心があると、たとえやってることが少女漫画と一緒でも、女はドン引きです。

ヲトメ心を知るのに少女漫画はこれ以上ない優良な参考書ですが、使い方を間違えると痛いので、ご用心。正しい使用法は、このコラムで学びましょう。
<『エイリアン通り』編 FIN>