実は過去に2回ほど、見合いをしたことがある。「あとは若い人たちだけで……」カコーン! なんていうのをやってみたかったのと、もちろん遂の伴侶が欲しかったからだ。しかし2人目の見合いの際、相手の方があまりに良い方だったため、なんだかものすごく申しわけなくなっちゃって、思わず「しばらく結婚する気がないんです」などと心の端っこにもないことを言ってしまい、話がぶっ壊れたうえに、お見合いおばさんからしこたま怒られたことがある。
バブルを遊び倒したチャン・ツィーに似ているとか、特技=シモネタのように言われている私だが(清純さを取り去ったチャン・ツィーのどこに魅力があるのか……)、実はものすごいオクテなんである。好きな人ができたところで、何をどうしたらいいのかわからない(そもそも「バブルを遊び倒した」というのも、かなりの濡れ衣だし)。というわけで『あさきゆめみし』の中で心臓が震えるほど共感するのが、葵の上である。
葵の上は、源氏の最初の正妻だ。源氏が元服をした12歳、葵の上は16歳のときの結婚。しかし葵の上の冷たい態度から、二人の仲はまったくうまくいかない。源氏が葵の上の家を訪れても、「頭が痛いので」「女房に相手をさせましょう」などとあしらって、自分はよそへ行ってしまう。故に源氏は、葵の上にすっかり嫌われていると思い込むのだ。
まあ、女というのは、嫌いな男にも恐らく同じような態度を取るだろうから、わかりにくいっちゃーわかりにくい。しかし葵の上は、こう言う。初めて源氏に会ったとき、彼のまっすぐなほほえみに、「どうお返ししたらいいのか、わからなかった。誰も、どうすればいいのか教えてくれなかったもの」と。
ホントにそうだ。いったい恋愛の手管というのは、誰が教えてくれるんだろう。仕事だったら「この納期だと厳しいですよ」とか「ネックは費用の面ですね」などと、教えてもらえることが多い。が、恋愛に関しては「さっきのシモネタ、言わなければいい感じだったのに、チャンスを逃しましたね」などと本人から指導をしてもらえることは、まずない。葵の上が悩むのも頷ける。
そのうえ、自分が素直になれずにわだかまっている間、六条の御息所やら紫の上やら、源氏の女癖の噂が聞こえてくるのだからたまらない。「難しい学問のお話ならば、よそ(六条)でなさるがいいでしょう」などと、強がってしまう。あぁ~、葵の上よ、男はバカなんだから、そんなこと言ったって伝わらないよ。
とか言って私は私で、大好きだった年下の男の子に、精霊でも降りてきたのか「年下には興味ないのよね!」などと言ってしまい、大牽制球を投げてしまったことがある。言った瞬間、自分で青くなったが「うっそだよーん」でもないし、どうしたらいいのかわからなかった。男性諸君、女からの拒絶の言葉を聞いても、それに臆さず3回くらい確かめてみてほしい。2回目、3回目には本心が聞けるかも……。というわけで葵の上の気持ちは他人事ではない。
引き替え、うらやましくて憎らしいのは、朧月夜<おぼろづきよ>。彼女は源氏の政敵の娘で、朱雀帝(源氏の兄)の元へ嫁入りが決まっているのだが、実は源氏といい仲だ。はきはきとした自信家で、「わたしはこんなに美しいのよ」、そして後宮での争いごとに勝ち抜いてみせるわ、などと言う。源氏との恋でも対等にやり合い、「私もあなたを気に入っていたのよ」と堂々と告白する。ああ、うらやましい。
二人の仲が明るみになり、源氏は須磨に流される。許されて戻ってきた源氏は、懲りもせず朧月夜に言い寄るのだが、朧月夜は「あなたは、院が私を想ってくださるほどには、私のことを好きではないでしょう?」と言って、源氏とすっぱり縁を切る。こういうことも、自分に自信がなければ言えないことだ。
不器用な葵の上と、自信家の朧月夜。共感という点では、圧倒的に葵の上なんだよなあ。
<つづく>