先日、飲み会に行って、隣に座った男性につい「うわぁ、すごいですね~」などと少々褒めたら、ものすごい自慢話が始まってしまい、"しまった、おだてすぎたか"と思った時には遅かった。自分の得意分野の話をするのは構わないけど、私の話をまったく聞かないのにはまいった。「早く帰りたいなー」と思いながら飲み会を過ごしておりました。

とまあ、この手の接待経験がある女は多いのではと思うが、それが結構面倒くせえなと思っているらしいのは、女性向け漫画に「話をよく聞いてくれる癒し系」がしばしば登場することから伺える。『花衣夢衣』では祐輔さんだ。祐輔さんは澪の夫・将士さんの弟で、生まれつき心臓が悪く、自宅で療養している。つまり澪の家には、夫の将士さん、娘、息子、義弟の祐輔さんが住んでいたわけ。

しかも生まれてこの方、ほとんど家を出たことがない祐輔さん、いきなり自宅で世話を焼いてくれる美人姉ができたら、それはもうすりこみのように恋の虜に。その後、あれやこれやで夫婦がもめて将士さんが家を出ると、なんと澪の家には、大人は祐輔さんと澪の2人きり。

自分の世話をしてくれる人を好きになる時点でなんだかペットっぽいが、祐輔さんの場合は外出もしないので、その色はさらに濃厚に。祐輔さんはまた病弱というのが、男性的な匂いを感じさせなくてよい。これがもし、「将士さんと年の離れたニート」とかだったら、萌えどころか、危険なにおいがプンプンしてしまい、癒しどころではなくなってしまうじゃないか。む、しかしこのシチュエーションにするとエロ漫画でいけそうだな。

姑は、ドラマではお決まりのように意地悪だが、原作では非常に公平な女性だ。しかし嫁に行って、他人の家に暮らすというのは、いじめには遭わなくとも敵地に乗り込むようなもの。そのなかで祐輔さんは、夫の将士さんのひどい狼藉に反発し、しっかり澪の味方をしてくれる。夫の家族が味方になってくれることがどれだけありがたいか。

基本的に、女性向け漫画では癒し役の男はエロ方面で活躍してはいけない。特にセックスに関して複雑な思いを抱える女にとって、身体が絡むと癒しにはならなくなってしまうためだ。その点、祐輔さんなら身体が弱いから大丈夫! しかし祐輔さん、自分の死期を悟り、思い切って澪に告白する。すると澪は、心の支えとなっていた祐輔さんに、心だけでなく身を捧げてしまうのだ。祐輔さんが単なる癒し系男ならこの展開はなしだが、この2人の関係が、この後ストーリーに大きく関係するので、ここは存分に愛し合ってしまってよい。

それにしても祐輔さん、心臓が悪いようなのだが、かなり弱ってる時分に、せっせと勤しんじゃって大丈夫なんだろうか。確か伊集院静だったと思うけれど、心臓の悪い男と元気な女との恋愛小説があった。その話でも男は「自慰すら危ない」などと医者から言われていた。セックスって、特に男には心臓にかなり負担がかかりそうなものだが、どうやら恋愛ものには響くシチュエーションのようだ。「命をかけた恋」ってことなんですかね。

ところで、ドラマで祐輔さん役をやっている溝呂木賢。『花衣夢衣』と同じ作者の『新・風のロンド』にも出演していたようで、すっかり昼ドラの人なのか。というか、どちらのキャラも髪を丸ペン(細い線)で描かれた繊細な青年である。次にもしまた『彩りのころ』(ドラマのタイトルは『このこ誰の子?』)をドラマ化するとしたら、朝比奈拓也役は溝呂木くんがやるのだろう。彼は髪が丸ペンだから。……余談だが、この溝呂木くん、2003年の『仮面ライダー555』に出演してて、それはもう情けない男子役をやっていた。なんだか心や体のひ弱な役ばっかりなのね……。
<『花衣夢衣』編 FIN>