筆者が心の底から頭の悪かった高校生の頃……冬にはジャージを折ってスカートの下に履いてたような時代でしたが……ほとんど本なんか読んだことのなかったクルミ頭の女が、必死に読みあさっていた本があった。氷室冴子である。『シンデレラ迷宮』『なんて素敵にジャパネスク』『ざ・ちぇんじ!』。面白かったなあ。あれで活字に目が慣れて、今では普通に本が読めるようになったんだから、最高の教科書であった。
とまあ、コバルト文庫の全盛期を作った作家、氷室冴子が漫画原作として書いたのが、この『ライジング!』。宝塚をモデルにした、『ガラスの仮面』である。要は演劇ものなのだ。
ところで先日、1980年に創刊された全国初のレディースコミック雑誌創刊号を読んだ。もう載ってる話ひとつひとつに大爆笑である。何がおかしいって、主人公の女がどの作品もどの作品も、ナタリー真っ青なくらい不幸なんである。「××さん、部長に振られて傷物にされて捨てられたらしいわよ」とか、OLが給湯室で噂したりしてるのだ。傷物! 傷物って、どこの傷のことでしょうか、ねえ来実さん? 当時働く女がどれだけ陰鬱で辛かったのか、うんざりするほど描かれておりました。25歳過ぎたら行き遅れとか言いやがるしよう。
それはいいとして、まあ現実の女の生活は、それはそれはしょっぱかったということだ。そんな中で女に夢を与えようとしたら、どうしたって主人公をお姫様にしてみたり、バレリーナにしてみたりしなきゃいけなかっただろう。そのひとつの手段として、女優というモチーフが使われたのが、この作品なんである。
演劇漫画のいいところは、話の展開だけではなく作中劇も楽しめるところ。『ライジング!』に描かれた舞台作品はどれもオリジナルで、しかもすべてきちんとストーリーを作り込んだのだそうだ。そのひとつ、『レディ・アンをさがして』は、後に独立して文庫化されている。俳優がよく「いろんな役柄を演じられて楽しい」などと言うが、演劇漫画でも同じで、1作で何度も美味しい感じとなるのだ。
さて最近はどうもエコブームである。筆者なんかは割り箸を使わないように、MY箸なんてものを持ち歩いてるが、昔の少女漫画も大のエコブームである。しかしこのエコ、エコはエコでも「えこひいき」のエコ。オヤジギャグすまん。
漫画執筆担当の藤田和子は、最近はすっかりロマンス系の作家になっちゃったようだが、彼女の絵は非常にシャープで、男がかっこよかった。そして『ライジング!』に登場するかっこいい男・高師謙司。彼は宮苑歌劇団という、女ばかりのミュージカル専門演劇集団の団員養成学校の先生である。この高師先生、宮苑音楽学校に入学してきたキラリと光る才能の持ち主に目をつける。主人公の仁科祐紀だ。祐紀は演劇素人で、セリフ棒読みだけど、なぜか華があって舞台映えするという、マヤのような才能の持ち主である。彼女に高師先生はとことん入れ込む。この辺も月影先生とマヤの関係のようだ。しかし違うのは、月影先生は死にそうで死なない(そして何の病気かよく分からない)女性だが、高師先生は、健康な若い男だったということだ……。
高師先生よ……それは職権乱用ってもんじゃないですかい、と言いたいくらい、今だったら訴えられちゃいそうなくらい祐紀にべったりだ。エコである、エコ。少女漫画の鉄則のひとつが「主人公の成長」であるから、祐紀はもちろん作中、いろいろ努力をしている。しかしその努力って、主役もらっちゃったからとか、特例もらっちゃったからとか、それはもう「当たり前だ馬鹿っ!」と言いたくなる状況なんである。先に選んでもらっちゃって後から努力しまーす♪ というチャンスをもらえることが、世の中どれだけあるだろうか。だったら私に1億円くれ。その後で一生懸命働くから。
とまあ、なんか腑に落ちない努力であるのだが、高師先生がどれだけエコ活動したのかは、次回にでも。
<つづく>