大阪に出張中、梅田近辺を歩いていたら、ふと気になる文字が頭に飛び込んできた。何だろうと思って、一度通り過ぎた壁を振り返ってみた。「鷹は海をめざし 海に生き 海へ還るーーーー」と書いてある。フンガーっ! 何じゃこりゃー!? と思ってよく見ると、宝塚のポスターであった。

このなにやらかっちょいいコピー、青池保子の漫画の主人公、ティリアン・パーシモンという超イケメンのセリフである。というわけで、今回は宝塚演劇化記念(ちょっと遅いけど)ということで、『エル・アルコン-鷹-』を取り上げてみましょう。青池保子といえば、『エロイカより愛を込めて』が一番有名かと思われますが、個人的には圧倒的にこの『エル・アルコン』が大好きなのでがすよ。ふふふ。

『エル・アルコン』の主人公ティリアン様は、イギリスの貴族で海軍の軍人。が実は母親の母国であるスペインのスパイである。スパイ……。もうそれだけでもアンニュイな感じ。そしてスパイらしくも冷酷無比で、自分の出世のためなら、ばっちいこともおかまいなし。

しかし、いくら冷酷無比でも頭が悪かったら目も当てられません。そういう場合は出世もできないだろうから、単なるルールを守れないその辺のゴロツキどまり。けれどもティリアン様はものすごく頭がよい。実生活ではあまり聞かない「切れ者」という言葉がぴったりで、次々と悪巧みをしてはスクスクと出世をしていくのである。

ところで、『ささるぅ』という深夜番組をご存じでしょうか。女を落とすためのテクニックをあれこれ紹介してくれる番組です。これで毎回必ずやるのが、「女子にうんちくを聞かせましょう」というもの。水族館に行ったら「フンボルトペンギンは、日本で一番多く飼育されてるペンギンなんだ」とか、鉄道デートに行ったら「このカクテルは日本で初めて食堂車で出されたカクテルなんだ」とか言えと。

マジスか!? そんなうすっぺらい知識をひけらかされても! ついつい「で、その理由はなんで?_」とか「フーン、どこから仕入れた情報? それ」とか、シラけたことを言うからモテないんでしょうが私は。でも男の「俺、俺、すごいでしょ」アピールは、面倒くさいことが多いのだ。大抵、聞いてておもしろくないし。

しかしティリアン様は違う。影でいろいろ画策はするけれど(そりゃスパイなんだから当たり前だが)、決して出しゃばりません。「私はただの海軍士官です」とか言って無力をアピール。頼ってるフリして他人を動かしたり、できないフリして相手の警戒心を解くことも時には必要で、決めるところさえバシッと決めれば、あとは弱くったってだらしなくったっていいのだ。

下手に出て、相手を立てるのも作戦のひとつ。無駄にうんちくを振りまいて、1から100まで漏れなくテンパってるのって、イマイチかっこよくないと思うんだけど、どうでしょう?
<つづく>