バブル絶頂期、「ジェットコースタードラマ」というのが流行りました。ものすごく話の展開が早くて、一週見逃すと登場人物の立場がすっかり逆転していて、話が全く見えなくなるような……今流行の韓国ドラマなんかは、その系統であると思われます。
テンポのよい話というのは、視聴者を飽きさせないという大メリットのほか、あんまり深い意味がなくてもよいという作り手側のメリットもあります。ドストエフスキーなんか読んでみようよ。20ページ読んでもまだ主人公は同じ電車に乗ったままですぜ。その代わり、精神的に訴えるものは、20ページ分しつこいほどにあるようだけど。
さてこの『覇王愛人』も、一種ジェットコースタードラマである。日本でばったり知り合ったマフィアの大ボス・黒龍さんと女子高生の来実。この2人の激しくも悲しい愛の話は、2巻になると突然(ええ、ホントに突然)学園ドラマに大変身するんである。実は黒龍さんは、男子高生だったのだ……! えぇ~っ!!
それまで暗黒の世界がどーの、敵にさらわれいたずらされてどーのと、ごちゃごちゃやっていたのだが、それだけではエロのシチュエーションが保たなくなったのでしょうか。突如、舞台を学校に変え、保健室だの放課後の教室だの体育館倉庫だのでいかがわしい作業が行われるんである。なんだか、ひとつのDVDにあらゆるエロシーンを盛り込みたいがために、話がものすごい展開になってるAVのようである。
そして学園ものが一段落すると、今度は黒龍さんがナイスな提案をする。来実に「俺の身の回りの世話をしろ」というんである。そしてそこから突如、メイド物語がスタート。しかも夜のご奉仕付きで、そこらのエロアニメのようである。
そしてすごいのは、「おしおき部屋」……少女漫画で初めて拝見いたしました。なんだかよく分からない理由で黒龍さんのもとから逃げ出した来実。彼女をかくまったのが家輝というヲトメ顔の少年である。逃げた来実を捕まえて、おしおき部屋に連れて行く黒龍さん。簡素な手術台みたいなところでイチャイチャしていると、シャーッとカーテンが開き、なんとそこには手口をふさがれた家輝が……! 「見ないでぇ~!」と叫ぶ来実。
欧米はどうだか知らないけど、日本をはじめアジアの女は、セックスに対して羞恥心や恥じらいが必須である。「どうも白人のビデオは女が楽しそうでダメだ」という男性は多いのではないでしょうか? ここら辺は女も同じで、エロシーンには「心は純粋だから、こんなこと望んでないの」「恥ずかしいからやめてぇ」というエクスキューズが必要なのだ。
その理由として、この物語では「愛されてないなら」とか「危険な目に遭わせたくないから」とか、いろいろ理由をつけては純粋にエロを楽しんでいないかのような設定にしてるわけだ。そのひとつが「こんな私を見ちゃイヤ!」という羞恥プレイだったわけですが……ここまでする必要が、少女漫画に……? つーか、そんな悪趣味男、私だったら嫌いになるが、どうだろう来実よ。
いやしかし、この『覇王愛人』、なんだかものすごく売れてるらしい。あらゆる意味でショッキングな漫画でございました。
<『覇王愛人』編 FIN>