少し前、家に帰る前待ちきれず、買ったばかりの『NANA』の単行本をレストランで読もうかと、鞄に手を突っ込んだ時のこと。となりのOLたちが、
「あたしはシンがいいなあ~」
「タクミは彼氏にしたいけど結婚したいタイプじゃないよね~」
などと話していた。そ、それは、『NANA』のことですね……。隣でそんな話をされては、いまさら鞄から出して読むわけにはいかないなあ……。仕方なくレストランを出て原宿の駅で電車を待っている時、電車の中で読んじゃえと鞄に手を突っ込むと、ガーっとやってきたのは、全身NANAのイラストが描かれた列車。そんな電車が来ては、いまさら鞄から出して読むわけにはいかないなあ……。
そんなわけで結局家まで読めずに帰ってきたわけだが、少し前、間違いなく日本中が『NANA』で頭がいっぱいになっていた時期があった。"NANA"と聞いて、NHKで放送禁止になった『NANA』(チェッカーズ)の歌のほうを思い浮かべる人間は、かなりカンブリアな感じになってしまった。でも、この『NANA』には、日本の(若い)女性が馬鹿ハマリするだけの理由がぎっしり詰まっているのだ。
主人公は、ふたりのNANA。ひとりは、ハチ公と呼ばれている自立心も才能も社会的スキルもない、男にだらしないナナ。もうひとりは、映画で中島美嘉が同じ顔になってて恐かった、パンクで男勝りなんだけど実は繊細で悲しい生い立ちのNANA。この漫画のうまいところは、ふたりの対比にもあるけれど、私はなによりナナにあるとみた。
私が、はるか昔女子高生という名前の生き物だったとき、三度の飯よりもジャニーズが好きで、実物の男よりもジャニーズに詳しい生き物でありました。そんな生き物が彼氏もなしにどのようにして生活しているかというと、もー好きなジャニーズで妄想ですわ。
ジャニーズのどのグループが好きだったかは年がバレるので控えますが、私がよくやった妄想は、私がジャニーズの合宿所の家政婦さんになるというもの。そこで熱を出して倒れる私を、そのジャニーズが優しく介抱してくれると。もともと世話焼きな人間じゃないので、せっかく家政婦の妄想してるっていうのに、自分が世話するどころか世話してもらう妄想で喜んでたわけ。
芸能人の彼女になるというのは、女の虚栄心を満たす条件がぎっしり詰まっているのです。ひとつは、芸能人はお金がありそうなこと。もうひとつは、芸能人だけあって悔しがる女性が多く、虚栄心が満たされること。それゆえ"選ばれた感"がムンムンすること。そして芸能人だからイケメンであること。
これらどれをとっても「自慢できる彼氏」であるから、芸能人の彼女になるというのはある意味、女性にとって最っ高の夢なのである。そこでナナ。仕事は続かない、仕事がないから金もない、すぐやっちゃって男には振られる、才能もない努力もしないというダメっぷり。
ここでナナは読者から、「私も仕事、何したらいいのか分からないの!」「私もフリーターだし」「私も男に惚れっぽくて」「何をしたいのか、何ができるのか分からない!」という共感をガッチリ掴む。その上でナナは、女の欲望をこれでもか、これでもかと叶えていくのである。
<つづく>