漫画喫茶というのは情報の宝庫。私はこのコラムのほか、美容系の書き物をしているという仕事柄、女性誌を読んだりするのにも漫画喫茶は便利なのだ。そのうえ、ここにはレディスエロ雑誌までもご丁寧に置いてある。最近の若者は、デートで漫画喫茶に来たりするらしいので、そういう状況でお使いになるのか、私のように三十路彼氏なしが夜中、漫画喫茶にやってきてお使いになるのか。

実は昔、興味本位にエロレディス雑誌を読みあさったことがあった。久しぶりにこれをひもといてみたい……が、なんか恥ずかしい。六本木の本屋で買ったときは、わざわざ紙袋に入れて中身が見えないようにしてくれた。買うのは全然恥ずかしくなかったってのに、なぜか漫画喫茶で自分の部屋に持って行くのは恥ずかしい。恥ずかしいし、なんかベタベタしてそうな気がしてイヤだってのがあるのだが、発売日になら読んでもいいのかな……などと漫画喫茶で逡巡しているうちに、誰かが持っていったらしく、雑誌が入っていたラックが空いている。い……いまごろお使いなんですか、誰かがこれを……!

というわけで今回は違うものを借りて読んでみた。おや……? なんだろうこの萌えシーンは。間違えてエロ雑誌を持ってきてしまったか? いや……表紙を確認してみると、この本には「少コミ」と書いてある。毎コミといえば毎日コミュニケーションズの略だが、少コミといえば、「少女コミック」の略である。うん……間違いない、これは正真正銘、少女漫画だ。しかしなんなのだ、この過剰な読者サービスは!

というわけで大人もびっくりの『覇王愛人』。そこらのレディスエロ雑誌よりも萌え系です。非常に申し訳ないのだが、私とは好みが違うのか、単に私が歳を取っちゃったからなのか、時代が違うのか。理由はよくわからんが、この作品、読んでも読んでも感情移入はまったくできず、同感もしません。どシリアスシーンで思わず腹抱えて笑っちゃうことも。

しかし、ただひとつ納得できること。ここには30年以上も連綿と続く、少女漫画のセオリーがぎっしり詰まっていたのである。

この作品は、平凡な女子高生の来実(くるみ)が、香港マフィアのイケメンおやびん・黒龍(ハクロン)さんと出会ってなんやかんややりながら、いちゃいちゃする話である。この2人、まず出会いからして少女漫画の基本を忠実に守っている。敵に追われている黒龍が、通りがかりの来実を脅し、「恋人同士いちゃついている振りをして、この場をしのがせてくれ」と言う。はいストップ。これ、少女漫画頻出シーンです。

敵に追われたイケメンが、主人公の女を半ば脅して、公園やら街角やらで恋人の振りをする。追っ手は「なんだカップルか、いちゃつきやがって」などといって通り過ぎていく(こいつら、ほんとに追っ手の資格がありませんな)。そして恋人の振りをする際、主人公はイケメンに無理矢理チューをされてしまいます。これこれ、少女漫画では「白壁チュー」に匹敵する萌えシーンのようだ。

初っぱなから飛ばしまくっているこの『覇王愛人』。もー中身はヲトメの妄想大炸裂だ。次回からは具体的なシーンを挙げながら、どの辺がヲトメの妄想なのかを読み解いて参りましょう。
<つづく>