一時期結婚していたとき、長年親しんだ自分の姓から、赤の他人の姓に変わることにとても違和感があった。そんなことを相手に言ったら、「俺は男だからイヤだけど」と言われた。そういえば、「俺は男だからタバコを吸ってもいいけど、女のおまえには似合わないからダメだ」とも言われたことがあったな。
なにそれ冗談じゃねーやと思って離婚してしまったわけだが、まあ昔はそんなことが普通にまことしやかに唱えられていた時代だったのだ。向上心のある女たちには、さぞかし暮らしにくかっただろう。
もちろん、少女漫画を読んでいる女たちは、実際は置いとくとしても、気持ちはいつだって向上心でいっぱいだ。男だったら自由に好きなことができるのに、女に生まれたせいで「あれはするな」「これはダメだ」と言われて窮屈だし、男はなんだか威張って女に命令する。かといって自立しようにもなかなか女の働く場所というのは多くはなかった。そんな鬱憤を晴らすのも、少女漫画の役目だったのだ。
直時は、浩美よりも学年が1つ下だ。2人が出会ったころに、直時は「ひとつ下だってこと、気になる?」と聞いている。いやひとつくらい全然どうでもいいでしょ現代だったら。「僕が年下だってこと、気になる?」とか謙虚なこと、聞かれたことないよ?
まあそれは個人の資質の問題かもしれないけれども、直時にわざわざ「年下気になるか」発言をさせているところからも、まさしく当時は男性優位で、「年下の男なんかありえないでしょ!」という時代だったことが伺える。
しかも、年上女と年下男というカップルを作るための言い訳までされている。なんと浩美は早生まれ、直時は4月生まれで、「なんだ2人はたったの10日しか誕生日が違わないじゃん」ということがわかるのである。これ、現代だったら全然いらない言い訳である。
そんな「男が強くて目上で当たり前」な時代に、なんと浩美は身長180cmを越すイケメンたちを尻に敷いてしまう。事の始まりは、高校が合併したことで応援団が2つになり、団長も大仏くんと直時の2人になってしまったことだ。じゃあどっちの団長が新団長になるか、という選挙をしたときのこと。あるトラブルから浩美が直時に代わって選挙の演説をすると、どちらに投票したらいいのか迷った生徒たちは、こぞって浩美に票を入れてしまうのだ。
そうして選挙前に取り交わした約束「新団長には絶対服従」が履行されることになった。泣く子も黙るような恐ろしい男前たちが、次々と浩美に頭を下げる。大仏くんと直時は浩美に惚れてるから、彼女に協力的だ。
こんな話を読んで、当時の女たちはどれだけ胸がすいたことだろうと思う。おまけに直時ときたら、浩美が権力を増すために、いろいろ手を尽くしてくれるのだ。一歩下がって知恵を働かせて自分を守ってくれるイケメン。夢のような話だ。
次回は、子どものころにこの漫画を読んでいて、本気で気に入らなかったことがあるのだが、それがどこか、なぜかという話でも。
<つづく>