ふと思い返してみると、タバコが今よりも社会的地位を得ていて、オフィスや飲食店なんかで当たり前のように吸えた90年代前半、女はトイレで隠れてタバコを吸っていたものだった。

男の前でスパスパ吸うのは、男がかわいそうとか、ヤリマンっぽく見えるからダメだとか、まあそんなことが言われていたのだ。だったら吸わなきゃいいと思うけれど、そこはなんというか「やりたいことは我慢しないの」的なことだったのかもな。

バブル期って女の社会進出の過渡期で、ほかにもいろいろ矛盾があった。例えばメイクは垂れ眉の真っ赤な口紅と、めいっぱい女を強調しているのに、着ているのは吉川晃二バリの肩パッドの入ったジャケットだったり。男物を袖折ってブカブカ着るのも普通だったよな。「女であること」と「男と同化すること」をごっちゃにしながら、行き先を模索していた感じだ。

『花のO-ENステップ』は、80年代半ば、まさに女が行き先を模索していたころに描かれた漫画だ。大人になって久々に読み返してみたら、これが猛烈に面白かった。というか、「なんで女がこれを面白いと思っていたか」が今ならよくわかるのである。

主人公は、浩美。彼女の通う女子校がある日、男女共学になったところから話が始まる。その高校に転入(なのか入学なのかイマイチわかんないんだけど)してきた天羽直時(あもうただとき)と中村千秋が応援団を作るという。だけどそれは、背中に花を背負った華麗で変態な応援団。浩美は普段から男と見紛うボーイッシュな女子だったことから、それに加わることになり、まーなんやかんやなるのだった。ちなみに主人公の浩美とくっつくのは、名前の単純な中村千秋ではなく、読みの難解な天羽直時のほうである。

さて、このいかにも「ボーイッシュな主人公」というのも、時代を感じる設定だ。昔はそれこそ『はいからさんが通る』の紅緒だの、『キャンディ・キャンディ』のキャンディだの、『つらいぜ!ボクちゃん』の望だの、ああいけない、当たり前すぎて忘れてた『ベルサイユのばら』のオスカル様だの、70年代は「男に生まれたかった」とか言ってる女がザクザクいた時代。当然、ボーイッシュな主人公に憧れが抱かれた。

現在はそういう話が比較的少なくなってきたように思う。昔のように、女らしいことの否定として「ボーイッシュ」な女子が取り上げられるのではなく、男の団体の中に混じるために男の格好をしている(『風光る』とか、ドラマの視聴率が大変なことになってる『花ざかりの君たちへ』とか)といったように、ハーレムに乗り込んでいってモテモテになるために男装してるとかで、ボーイッシュの意味合いが違うのだ。

で、話を漫画に戻すと、突然、女子校から共学になった陽成高校だが、すぐさま清麗高校を吸収合併することになった。そこで大仏(おさらぎ)くんという応援団長であり直時のライバルが登場する。これに、めいっぱい女の子っぽい奈々と、奈々にベタ惚れの千秋、トラブルメーカーの中務(なかつかさ)くんなんかが入り乱れて、ワイワイと話が進む。

基本的にコメディなのでチャラチャラ楽しいお話だけど、ここかしこに「これ、当時の女は気持ちよくって仕方なかっただろうな!」という件があるのだ。次回はそんなお話を。
<つづく>