もーいろんなところに書いてるけど、「俺じゃダメなんだろ?」というよくわからない問いかけが、実は告白なんだというのを聞いて、えらくびっくりした。どうしてそんな成功率の低そうな方法で告白を試みるのかわからないけど、この方法にはでっかい間違いがあるのだ。それは、「今の俺じゃダメかもしれないけど、未来の俺はOKかもしれない」ということだ。
浮気者の男と付き合い続ける女は、「いつか浮気をしなくなる」ことを期待している。プー太郎と付き合う女は、「いつか働くようになる」ことを期待しているのだ。一生浮気され続ける、一生働かないなと思ったら……要は未来に期待が持てなくなったら、そこでレンアイはおしまいになる。つまり、今現在、いくらダメ人間でも、未来に期待できるうちは我慢ができる、恋愛対象となり得るのだ。
『ちはやふる』で、いいなあと思うシーンがある。全日本高等学校かるた選手権大会東京都予選に千早が初めて出場したときのことだ。初めて試合に出た机くんは、まったく勝てずにとうとうフテてしまうのだ。突然「帰る」と言い出して、後の試合を放棄しようとする。
机くんは、ガリ勉だった。勉強が大好きで、いつでも机に向かってガリガリやっていた。勉強は、やればやっただけ結果が出る。こういうヤツは大抵、打たれ弱い。勉強やゲームに比べてスポーツなどの競技は、心技体すべてを必要とし、その上で相手と向き合うため、思うように結果が出ないことが多い。机くんはかるたを一生懸命練習したのに、試合で勝てないことに苛立ち、自分が弱いことに猛烈な劣等感を抱いて、逃げ出そうとしたのだ。
太一は、机くんを勧誘するとき、「かるたの"天才"よりも、畳の上で努力し続けられるやつがいい」と言った。何かの才能を持っていて、それを続けられる幸運を与えられた人なんて、ごくわずかだ。大抵は、大した才能も持たずに汗にまみれてひたすら努力を続けるのだ。そうしてやっと、少しだけ結果が出る。太一は「きついけどやってんだ。負けるけどやってんだ。だって勝てたとき、どんだけうれしいか……っ」と言って泣く。熱い……熱いよ。でもかっこいいぞ太一。
結果、机くんは気を取り直して試合に出て、部に残り、かけがえのない人材になっていく。なにが大切かって、「あきらめないこと」だ。初めは誰だって初心者なのだ。「できない」「才能がない」と言って避けて努力をしなければ、いつまで経っても凡人なのだ。
とは言っても、主人公の千早は、圧倒的なかるたの才能を持っているという体だし、劣等感にまみれて諦めたり拗ねたりすることもなく、スクスクと前を向いている。どんなに教育的な漫画でも、主人公の特権は与えられるんだな。
机くんの醜態を見た読者は、「ヤダー机みっともなーい」と思うかもしれないけど、あれは読者自身が日常的にやってることなのだ。自分のできないことには「才能がないから」「時間がないから」と言いわけして、自分の可能性を自分でつぶしてしまう。ほとんどの人は、自分の人生の主人公にはなれても、社会から見たら100万人の中の1人。漫画に登場するとしたら、主人公ではなくて脇役なのだ。
最新刊あたりの机くんは結構な人格者になっちゃって、リアルだったら恋愛対象として全然アリだ。登場当時に比べて顔が長くなってきたような気もするし、あと少しでイケメンへ大変身するのかも。
「俺じゃダメなんだろ?」とか言ってる暇があるなら、努力をしたらどうだろう。その結果に見合った女がついてくるはずだ。まー、努力の方向が間違ってるとかだと責任持ちませんが。
<『ちはやふる』編 FIN>