さて、先週に引き続き、『ベルサイユのばら』(以下: ベルばら)を読み解きましょう。
『ベルばら』連載時、女にとってどんな時代だったかというと、男は威張りちらし、将来の夢はお嫁くらいしかありませんでした。そこへ、スックと現われたのが、オスカルさま。

オスカルさまは、剣の腕前は男以上で博識、ロザリーという無能な女(これこそ当時の一般的な女性像なわけだが)には保護者のように優しく、まるで白馬の王子様なんである。そのうえ、オスカルさまは男の格好してるだけで別にオカマじゃないので、惚れる相手は男である。

初恋の相手、フェルゼンの前ではモジモジしてみたりして可愛いところがあり、少女の共感を呼ぶ。かと思えば、安酒屋で飲んだくれてつぶれたり、自由奔放、そして気に入らなければ男相手に殴る蹴るの大げんか。

「いいなあ自由で」「いいなあ強くて」と、少女たちの憧れの的だった。

そう、オスカルさまは、男としても女としても、少女たちの理想像だったのである。両性分のポイントをかっさらってるんだから、そりゃあ人気も2倍2倍のむあつ人気にもなるわけだ。

そんな少女のアイドル・オスカルさまは最初、容姿端麗、お血筋良好のフェルゼンに心ひかれる。しかしフェルゼンはマリー・アントワネットと恋仲になってしまっているし、自分はしばらく男だと思われていたしで、泣く泣く諦めるのだ。

そしてここからが世の男性に希望と勇気を与える展開なのだが、最終的にオスカルが選ぶのは、武道も知識もお血筋も、何一つオスカルに敵わない、アンドレなのである。大抵の男は、自分の力量が足りないと、自分のお口でそれをカバーしようとする。要は言い訳したり、やたら話をでっかくして自分を崇高に見せようとしたりするんである。

しかしアンドレは偉かった。見苦しい態度は何一つ取らず、ひたすらにオスカルに尽くす。言われるがままに髪を切り、失明までしてしまう。大した力もないくせに、荒くれ者どもに食ってかかって、オスカルを守ろうと必死である。まるで「女の一人旅は危険だからな」とか言ってくっついていって、いっつもメーテルに助けてもらっている鉄郎のようだ。

そんなダメダメアンドレ、子どもの頃からオスカルさま一筋らしい。それなのに……! いざオスカルさまと一夜を共にしようというときになると、「恐くないから」なんて言っちゃって、すっかり立場が入れ替わっている。漫画には描かれていないが、アンドレはどっかでちゃっかり初体験を済ませていたのだそうだ。

……ちっとも一途じゃないぞ、アンドレ! しかし少女漫画的には、それが許されるから不思議なものである。他の女と肉体関係を結んでも、そこに心がなければ、気にならないどころか「いい経験」くらいな扱いなのが少女漫画なのだ。詳しくは別の漫画で解説するが、主人公以外の女をどんなにおざなりにしても許されるのである。

『ベルばら』は、実質、少女漫画界で初の本格的歴史漫画と言えるわけだが、この中には、オスカル×アンドレ、オスカル×フェルゼン、フェルゼン×マリー・アントワネット、ロザリー×オスカル、ロザリー×ベルナールと、恋愛話がてんこ盛りである。

女性向け漫画の基本として、"恋愛ネタのない話はない"と言われるほど、色恋の話は必須項目なのである。そしてそれが、女性に人気の漫画であるならば、そこには恋愛に対する女性心理のヒントがタップリあるに違いない。女性向け漫画は、女の恋愛観を知る、これ以上ない優れた参考書なのである。
<『ベルサイユのばら』編 FIN>