昔、少女漫画といえばお姫様と王子様だった。日本人なんだから殿様でいいじゃないかと思うのだけれど、昭和後期は日本文化否定の時代で、ビバ! アメリカな風潮があった。お洒落な漫画の舞台はアメリカ、そしてお洒落な歴史漫画の舞台は西洋だったのだ。
しかし、子どものころ「お姫様が登場する漫画」にワクワクしても、評価するのはドレスがキレイだとか王子様とどんな恋をするかといったことで、その話が史実に乗っ取っているかどうかには興味がなかった。つーか、基本的にはファンタジーとお姫様ストーリーって、女の頭の中では大差なかったりするのである。空を飛べて竜が出てくればファンタジー、なければ歴史かな、みたいな。
で、今回紹介するのは、『ビオランテ』という漫画である。ゴジラと戦っちゃう怪獣の話ではない。冒頭の背景説明を読んでみると、舞台はイギリス、デブで嫁をとっかえひっかえしたことで有名なヘンリー八世の死後、エドワード六世の治世の話だそうな。うっそー、架空のお国のお姫様の話じゃなかったんだ。なお、この時代はイギリス史上もっとも荒廃した年代と呼ばれているそうな。なるほど、確かに『ビオランテ』は陰謀渦巻く雰囲気の話だった。一応、史実を参考にしてお話を作ろうと努力をした構成だったのだ。ま、お話のメインディッシュに歴史的背景はまったく関係ないので、「作品の高級感を出す演出」どまりなんだけど。
主人公のエルシーは、子どものころ、悪者に家を襲われ家族を殺されてしまう。エルシー一家を殺したのは、エドワード六世の重臣・クランベリー公。彼は自分の公費使い込みを暴かれそうになったため、エルシーの父を殺すことにしたのだ。こいつへ復讐しようというエルシーの冒険活劇が、『ビオランテ』の大筋である。
仕組みは結構凝ってて、クランベリー公がエルシーんちを襲ったとき、生まれたばかりのエルシーの妹・セシルを連れ去り、死産した自分の娘の代わりに育てることにする。クランベリー公の妻は夫の悪事も、自分の娘が実は赤の他人の子どもだということも知らずに暮らすことになる。そしてエルシーが運命的に出会い、激しく想い合う金髪のイケメンはクランベリー公の息子なのだ。
仕組みは凝ってるのに、ものすごくワイドショーなスパイスをかけて仕上げるのは、少女漫画のお家芸。せっかく歴史を舞台にして陰謀渦巻く設定にしたのに、話のメインディッシュは「エルシーがいかに男にモテるか」と、「エルシーに意地悪をする女キャシィ」という、「べつに舞台は現代でいいじゃねーか」という内容なのだ。まー、そー言っちゃなんでもそうか。
エルシーは男装して美しくもたくましい女に成長し、彼女に恋焦がれるフランシスという海賊(フランシス・ドレイク様だ!)と、金髪の王子様フレデリック(クランベリー公の息子)の2人と、モテモテエルシーにヤキモチぱんぱん焼いてるキャシィがなんやかんややる話である。
女って、女に意地悪される話が好きだよな。なんでかというと、少女漫画界において女が女に意地悪する理由は、間違いなく男が原因だからである。脇役の女が惚れてる男が、主人公を追いかけ回すのでヤキモチを焼いて主人公に意地悪するのである。要は意地悪されるのは、モテの証拠というわけだ。男にモテるなら同性に嫌われようが意地悪されようがへっちゃらなのが、乙女心というわけだ。くさってますな。
ちなみに「ビオランテ」というのは、エルシーんちに伝わる、金メダルみたいな首飾りの名前だそうで。そんでこの物語は、なににおいても最後があっさり、というのが読みどころ。具体的には次回にでも。
<つづく>