就職して何年か経つころにやってくるものがある。「結婚」の嵐だ。周りがバタバタと結婚をし、親からは「そろそろ結婚しないの?」というプレッシャーがかけられる。付き合っている相手がいれば、そいつが自分との結婚を考えているのかいないのか、ヤキモキ考えることになる。男女の恋愛の中で、一番面倒くさい事象が「結婚」なのである。

昔、付き合っていた男が田舎出身だったので「行ったことのない県だから案内してよ」と言ったら、「クス」と鼻で笑われた。こっちとしては地元ガイド付きの旅行だくらいのノリだったのだが、向こうは「結婚をプッシュされてる」と思ったようだ。私は、だいたいにして思ってることをハッキリ言う人間なのに、どうしてこういうときに限って裏工作をすると思うのか。思い出すだけでもイライラする。

男友達の一人は、長く付き合っていた彼女がいたのだが、あるころ、「ウェディングディナー招待」とか、よくホテルでやってる結婚式のコースが食べられるという結婚間近のカップル向けプランに、しきりと連れて行かれたのだとか。しかし二人の間で「結婚」の言葉が出たことはないらしい。世の中のカップルというのは、みなこういう無言のプレッシャーをかけあっているものなのか?

『ホタルノヒカリ』でも、結婚の嵐が吹く展開がある。高野部長と一緒に住んでいる蛍は、マコトくんとドキドキのお付き合いをしている。そのマコトくんに、一緒に実家に行かないかと誘われるのだ。まーフツーに考えたら、「すわっ、ご両親に紹介される!」=「結婚の意思がある」だよな。ラブラブモード前回のマコトくんを目の前にして、蛍は一気に盛り上がる。ところが、ちょっと複雑な家庭環境に育ったマコトくんには、結婚願望がサラサラなかったのである。

マコトくん、一緒に住みたいだの猛烈アピールしてたくせに、先のことはサッパリ考えてなかったようだ。蛍が「一緒に住んで、その先はどう考えてる? ふたりで住むなら、ずっと先の未来も考えていけたらなって…」と思いきって言うと、ものすごい勢いでどん引きされるのだ。蛍も蛍で、そういう大事な話をするのにしどろもどろなのがいけないんだけど、マコトくんもマコトくんで、将来の約束もない同棲なんか女にとってデメリット以外の何ものでもないんだから、安易に提案するもんじゃありません。このあたりから話は急展開。その後、2人は怒濤のようなトラブルの波に襲われていく。

さて、このストーリー展開で、いったい読者はなにを読み取らなければいけないかというと、「付き合う人間には自分をさらけ出せ」ということである。「実家に一緒に行こう」と言われたら、心の中でモヤモヤ考えてないで「それって、結婚前提ってこと?」と聞けばいい。「一緒に住みたい」と言われたら、「その先のことは考えてるの? 女にはリスクがあるから、後先考えずに軽々しいことはできない」と言えばいい。問題は先延ばしにすればするほど、大きくなって返ってくるものなんだから。

高野部長と一緒に住んでいることだって、やましくないのなら最初に言えばよかったのだ。一度ウソをつけば、あとは雪だるま式にウソが増えていくもの。長く付き合った後で別れるよりも、ダメになるならさっさとダメになったほうが傷は浅いんだから、「そう言ってダメなくらいなら、それでいいんだ」と割り切るべきだったのだ。そもそも、「人に言えないことはしない」という潔さって必要よ。まっすぐに生きたいならさ。

漫画のワンシーンに、ああせいこうせいって言うのもおかしな話だけど、この漫画を読んで首の骨がおかしくなるくらい深く頷いちゃってる女子は多いはずだ。付き合っている男と、ろくな話し合いをしないでヤキモキしている女も多いはずだ。こういう話って、そこらのファッション誌を読むより勉強になる気がするけどな。
<つづく>