友達の彼氏を好きになっちゃったりとか、合コンで友達と同じ男を気に入っちゃった場合、女はどうするか。ほとんどが女は友達ではなく、男を選ぶのである。恋愛志向が強ければ強いほど鉄板だ。だって、友達はいくつになってもできる(かも)しれないけれど、男は若いうちに捕まえなければチャンスが少なくなっていくからである。男のブランド力が高ければ高いほど、女はさっさと友達を捨てるであろう。同じ男を取り合った話から実際に友人の夫を取った話まで、まあ、この手の話はこれまで公園の鳩くらいよく耳にする。

一方で、「すごくステキなカップル」というのは、現実にはあまりいない。「なんであんなのと付き合ってる?」「もったいなくね?」というふたりが圧倒的に多い。もちろんひがみ根性が働いているのかもしれない。だけどまあ、ものすごく美人で気立てのいい女とオレサマ系ダメ男とか(美人は意外と男から言い寄られないので、根拠のない自信に満ちあふれているダメ男に引っかかることがある)、すごく優しい男と同棲に嫌われてる女とか(人がいいと女の腹黒さを見抜けなかったりするようだ)、男か女か、どちらかがもったいないことになるのが、世の理らしい。

すごく仲がよくて、ふたりともそこそこルックスがよく、見ていても心地がよい(汚らしいカップルがイチャイチャしているのは単に見苦しいからな)、「ベストパートナーだよね」と周りが思う(自分たちで勝手に思ってる場合はあるだろうが)ことって、残念ながらあんまりない。

『彼女の彼』では、まず主人公の芹香が好きになった凌二には、春美というカワイイ彼女がいた。芹香と春美はすぐに仲良くなり、芹香は「友達の彼氏を好きになっちゃった人」になるのである。春美は学校にあまり来ないので、芹香は凌二たちとしょっちゅう一緒だ。奪うチャンスはたんまりある。しかし、ここで凌二を奪ってしまったら、「いい子ちゃん」が鉄則の少女漫画の主役は張れないのだ。

さて、ここからはネタバレだが、少女漫画としては主役の女が好きな男とくっつかなければならない。でも女が男を奪うのはNG。で、どうするかというと、これまた都合よく春美が死んじゃうのである。これによって、芹香と凌二はすんなりくっつくわけにはいかない、けど好きというドラマチックな展開になったのである。うまい、うますぎる。

春美は死ぬ前に「凌二だけが私の誇りだから、凌二を芹香にあげる」などと言っているので、春美的にはふたりが付き合おうがまったくOKだったようである。ていうか、むしろそうしてくれ的な。もし春美が死ぬ前にふたりがそう言ってもらってれば、連載はもう半分くらいの長さで終わっていただろう。春美の死によって「春美の死を都合よく利用するなんてできない」的な感じになって話は大盛り上がり。読者の数も急上昇だ。

多少乱暴な要約をすると、芹香ちゃんというとてもいい子は、凌二くんという彼女持ちを好きになりましたが、彼女の春美ちゃんが死んでくれて、黙っていい子にしてたら凌二くんを手に入れました、という話だ。人生こうならいいな。

ところで、それまで同じ環境にいた人間と、進学やら就職やらで環境が変わったとき、いい関係を続けていくのは難しい。環境が違えば、常識もルールも違ってくるからだ。就職を機に別れた、進学先が違って友達と話が合わなくなったというのは、よくあることだろう。凌二はかなりやんちゃな不良だったけれど、一念発起して高校を受験し、真面目くんになった。この辺がまた凌二のかっこいいところである。でも春美は、高校受験に失敗してプー太郎になった。「朝から晩まで遊んでるのよ。仕事も続かなくて。私は、凌二がもっとも嫌ってた人種になっちゃったのよ」と言う。芹香が憧れたカップルはこうして壊れてしまった。

環境が変わっても、時間が合わなくても、それでもふたりの意志が離れないくらい真面目に向き合って、理解し合って、かけがえのない関係になる。ホントはそういうのが理想だけどね。
<『彼女の彼』編 FIN>