少女漫画の鉄則に、「男は我慢してナンボ」という価値観がある。性的描写がタブーであった70年代から連綿と続く頻出シーンだが、エッチOKの最近のものでも、相変わらず少女漫画の男性は我慢を強いられているのだ。

『海の闇、月の影』の当麻先輩も、それはそれは我慢強い。流風とは1巻の早々に両思いになっており、二人で夜をともにするなんて当たり前。パジャマだのネグリジェ(?)だの薄着の流風を抱きかかえたり、チューチューやったり、それはそれはお盛んなのだが、なんと当麻先輩は18巻(最終巻でっせ)までその先を我慢しちゃうのだ。「男は急に止まれない」は少女漫画では通用せず、いつでも急停止できるのが少女漫画の男性像なんである。

その理由はカンタン。欲情もあらわに押し倒して満足されたりしたら、純愛度が限りなくゼロになるからである。「愛してるからこそ、したいんだ」なんてのは言い訳で、男は己の欲情を満たすためならどんな嘘でもつく(かなり尖がった意見ですが……)ことを、女はよーく知っているんである。だからこそ、熱い思いをぐっとこらえて我慢してくれることが、自分への愛情の深さのバロメーターになるのだ。

しかし、恋愛ものを読んでいるからには、やっぱりドキドキはしたい……というわけで、当麻先輩は流水を怒らせることを承知で、ことあるごとに流風とイチャイチャして読者サービスをしてくれるんである。いやー実際、あそこまで無駄なくことが進んでいて、やめてくれる高校生がどこにいますかね!?

そして、流風のほうも主人公としての自負があるらしい。読者サービスのため、当麻先輩以外の男としょっちゅうなんだーかんだーやってくれる。北欧の天才イケメン・ジーンも、いまいち理解の及ばない理由で流風にモーションをかけまくってくる。登場人物総出で繰り広げられる読者サービス。主人公が寝込みを襲われるのは篠原千絵の大好きシーンであるが、流風もまんまとジーンに寝込みを襲われキスされてしまう。うーむ、いいシーンだ……。

もちろんこれは、ジーンがイケメンだからこそ、うっとりなんだぞ。少々ダメな方(?)に襲われたりしたら、それは高階良子の怪奇シリーズである。まああれも少女漫画だけどさ。しかもこのジーン、スポーツマンの当麻先輩とは対照的にクールな頭脳派。そんな人が絶対やりそうもないのに、全然欲情とかしなそうなのに、あつーく迫ってくるんだから「この想いは本物なのか?」とか思ってしまいます。

世の男性よ、女を落としたかったら、どーっと攻めておいて途中で急停止だ。急がば回れ、ウサギとカメであるよ。
<つづく>