まず冒頭で一発、宣伝を。新しい著書『少女マンガで読み解く 乙女心のツボ』(カンゼン刊・価格1,470円)が8月19日(木)に出版されます。ここでは取り上げていないタイトルを多数入れ込みました。イラスト、萌え台詞コラムや注釈など、結構賑やかで楽しい本になっています。ぜひ読んでみてくださいませ。

さて昔、こんなことを言っていた男友達がいた。「内田春菊の漫画は、読んだときに、エロい気持ちになればいいのか、どんな気持ちになればいいのかわからない」。女性向けの漫画は、ただ漫然と読めばよいのではない。そこに潜むメッセージを読み取らないといけないのだ。エロい気持ちになっていただいて結構だけれども、もうちょっと細々と読み取ってほしかった。

『目を閉じて抱いて』は、これまためっぽうエロい話である。というかセックスシーンがやたら多い。キーになるのは、オカマバーに勤める花房さんという美女だ。彼女は、男性器も女性器もしっかりお持ちで、女役も男役もできるという人。彼女を中心にして、周(あまね)くん、その元カノの樹里、七臣くん、津也子さんらが関係して話が進む。この4人が花房さんとやるだけではなく、周と樹里、津也子と高柳(津也子の彼)、高柳と樹里が関係する。簡単に言っちゃえば乱れた関係だけど、それぞれのやり方が組み合わせによって変わるところが面白い。

この物語では、「結婚したい人」が2人出てくる。ひとりは、周と結婚したい樹里。もうひとりは、津也子と結婚したい高柳だ。そしてどちらも、作中飛び抜けた「出来の悪い人間」なのである。

まず樹里。樹里と周は、順調に付き合っていたはずだった。周が花房と知り合うまでは。あっという間に花房に溺れた周は、樹里に別れを切り出す。樹里は納得いかない。なぜなら大きな会社(多分)に勤めるエリートを捕まえて、これで安泰と思ってたのに、もう30歳になるのにどうするのよってことだ。これにしがみつかないと、彼女の人生に関わる。なぜなら、彼女の頭の中には、「おしゃれと結婚と親兄弟と彼と友だち」しか頭の中に存在しないからだ。

もうひとりは、高柳。とある重大な事件を犯してしまった高柳は、津也子の部屋に逃げ込む。迷惑だという津也子に「俺たち結婚するんだろう?」と言う。

樹里と高柳、この2人に共通しているのは、「自分とのセックスはとても気持ちがいい(はずだ)から、相手は自分と結婚するだろう」と思っているところだ。樹里は、周に振られてもなお「(セックスしながら)きみがこんなにかわいかったなんて気がつかなかった、結婚しよう」「僕の子どもを妊娠したのなら、結婚しよう」と言ってくれると夢想している。

高柳は、自分とのセックスで乱れている津也子を思い出し、「あんなによがっていたんだから、俺じゃなきゃダメなんだよ 津也子は」と思っている。

そこからもわかるように、2人のもう一つの共通点は、自分の都合のいいように世の中や周りの人間を解釈して、わかった気になって相手と気持ちを分かち合ったり話し合ったりしようという意志がないこと。そして面白いことに、この2人が一緒にホテルに入るのだが、お互いがお互いを「なんてヘタクソなんだ!」と思い、不発弾に終わってしまうのだ。

引き替え花房は、誰とやっても、ものすごく極上のセックスができている模様。なぜなら、花房は相手の気持ちを引き出すのが上手く、相手によって、気分によって、相手との関係によって、さまざまにその行為の形を変えているからだ。セックスはとてもプライベートで、コミュニケーションの最上級パターンなのだから、花房として楽しいのは当たり前。花房とのセックスに周りの人間が次々とのめり込んでいくのは、男性が信じがちな「すごいテクニック」があるのではなく、単に「相手の心を覗き込もうという気持ち」があるからなのである。

「結婚生活は、とにかく思いやり」と言う。その思いやりに思いっきり欠如した樹里と高柳の2人が、結婚、結婚と騒いでいるのが滑稽である。まあ、思いやりといっても難しいけどね、相手の求めることってなかなかわからないし。ということで、女性のことをより知りたい方は『少女マンガで読み解く 乙女心のツボ』を読んでいただけるとよいかと。
おあとがよろしいようで。
<つづく>